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「どうも今晩は。お荷物のお届けにあがりました」

最近は、変な輩を招き入れるのが流行りなのだろうか。
先日は本体、今日に至っては荷物を持った配達員風の男ときた。
ここのセキュリティーはカスか。
文字の残滓だけでもうんざりなのだぞこっちは。

溜息をつき、思考の海へ視線をやると海は──荒れていない。

──おかしい。

闖入者とあれば思考の海は荒れるのが常だというのに。何故、荒れない?この男を受け入れているとでも言うのか?この配達員の身なりをした男を?

「あの、お荷物のご確認とサインをお願いしたいのですが」
配達員風の男が困り顔でこちらを見てくる。
男の言う荷物とやらは、片手サイズの小さな箱だ。
贈り物をやり取りするような関係はもう過去のことだ。今更自分にあるはずがない。

「人違いだろう。悪いが、受け取る気はない」

「そうですか。残念です。ちなみにこの荷物の送り主のお名前ですが…」
男の口から出てきた言葉に息が止まった。

「今、なんと言った?」

みっともなく震える自分の言葉に配達員は首を傾げながら、再び同じ言葉を口にした。

あり得ない。あるわけがない。
だって彼女はもう…消えてしまったはずだ!

初代のカードと共に!

「お荷物の宛名等のご確認をしていただけますか?」

穏やかな男の声にほだされた訳では無いが、気が付いたら荷物を受け取っていた。

「あざましたー」

配達員風の男はやる気のない礼をすると姿を消した。

やはり、アレは人ではない何かなのだろう。
でなければ、ここに来られるはずがないのだから。

男から受け取った片手サイズの箱には、懐かしい彼女の名前が書いてある。

「いないと思っていたんだぞ。ずっと…」

誰に言うでもなくそんな言葉がポツリと漏れた。

箱を止めているテープは、緻密なボタニカルアートのテープだ。実に彼女らしい。

「コレは罠なのか?罠にはめて自分をどうしたい?…」
 
久しぶりに彼女の名前を口にする。

胸に広がるこの感情は何と言うのだったか。

懐かしい。愛おしい。寂しい。切ない。
あぁ、どれも相応しくどれも適切でない。

かつては君の先生をしていたというのに。
もう、君に教えることは出来ないな。

「罠であっても受け入れよう。開けるよ…」

思考の海の番人は、小さな箱を開けた。

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「お疲れ様。配達ご苦労さまでした」
依頼主からメールが入っていた。
報告を事務的に入れてスマホを胸ポケットに仕舞う。
「お仕事完了」
配達員の男はポツリと呟き、夜空を見上げた。

今夜はクリスマスイブ。
奇跡の一つ起きてもおかしくはない──そんな夜。

配達員の男は穏やかに微笑んだ。

12/24/2023, 11:27:17 AM