水月凜峯(みなつきりお)

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『行かないで』


息も真っ白な冬の朝、
寒さで目が覚める。

隣のお布団は、もう空になっていて、
台所で、朝の身支度をする母の音が聞こえる。

母の朝は、週3で早い。
週に3回は、新聞配達をして、帰ってくると、
少し仮眠をとって、午後の家事に備えてる。

私が朝、起きて、顔を合わすのは、
配達が終わった後の母。

だけど、年に2度くらいのタイミングで、
配達前の母に会う。

今日はそんなレアな朝。

眠い目をこすり、ぼやけた頭と寝ぼけた声で
「いってらっしゃい」と、見送る私。

母は、はつらつと愛車のママチャリで出かけてゆく。

すぐ戻ってくるとわかってるから、
なんとも思わない朝の日常。


そんな生活がずっと続いて、
もう私は大人になったけれど
今も、新聞配達を週に2回はしている母。

お母さん、だいぶ歳をとったなぁ。
昔と違って、なんだか頼りなさそうな後ろ姿に

『いってらっしゃい』と、見送って、
帰って来なかったらどうしよう、なんて、
変なことも考えるようになった。

だから、口では「いってらっしゃい」と、
言いながらも
心の中では、『行かないで』って呟いてる、
そんな時もある。


『行かないで』って、子どものセリフのように
思っていたのに、
実際は、大人になった私が呟いてるのが、
なんだか可笑しくて、でも、切なかった。


今度は母と一緒に 早起きして、
今日も無事故で、帰って来ますようにって
子どものように、母親のように祈ってみようかな

10/24/2022, 10:42:52 AM