川柳えむ

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「『つまらないことでも』――つまらないこと……って何だと思います?」
 放課後の静かな教室。少女は目の前に座る部活の先輩に質問した。
「何それ哲学?」
 その言葉に、先輩は不思議そうに尋ねる。
 少女は首を横に振った。
「いえ、最近暇潰しにお題出してくれるアプリを使ってちょっと小説書いてるんですけど、そのお題が」
「つまらないことって?」
「『つまらないことでも』です」
 スマホを掲げて伸びをする。
「思い浮かばない」
 今度は机に突っ伏してしまった。
「つまらないことねぇ……ありとあらゆること、全てに楽しさを見出そうと思えばできないこともないしなぁ」
 先輩が少女の頭を撫でながら言う。
 少女は顔を少し上げて、先輩の顔を見てまた質問をする。
「えー……? たとえば、興味ない分野の勉強でもですか」
「知識を得ることは楽しいよ」
「炊事洗濯掃除とか、そういったやらなきゃいけないこととかは」
「それはつまらないというより面倒臭いかなぁ。それが趣味だって人もいるし」
「じゃあ意外とつまらないことってないですね」
「そうだね。人生に無駄なことはないとも言うし、そんな感じ」
「なんか違う気もするけど……なるほど?」
「それに、ほら。私達は今何をやってる?」
 先輩が笑いながら問う。
「え……? 喋ってる?」
「違う! 部活だよ、部活!」
 先輩は得意そうに人差し指を天に向けた。
「仮につまらないことがあったとして、そんなものはこの部活に来てしまえば関係ないのさ! だってここは『楽しいことを追求する部活』だからね!」
 ――そう。この部活は少し前に(先輩の思い付きで)発足した楽しいことを追求する為の部活だった。
 まさしくこのお題に相応しい。つまらないことでも楽しさを見出すのが彼女達の信条だ。彼女達の手にかかれば、きっと全てが楽しいことに変わるはず。
「あーそうでした。一応部活やってたんでした」
「一応って何!?」
「おーっす」
「お、来たね。我が部員」
 そんなやりとりをしているうちに、教室に人が、笑顔が増えていく。
 みんながいれば、つまらないことなんてない。もし誰かがつまらないと言うなら、一緒に楽しいことを探そう。
 少女はスマホを開き、アプリを起ち上げた。


『つまらないことでも』

8/4/2023, 10:33:43 AM