鳥かご
逢いたさ見たさに怖さを忘れ
暗い夜道をただ一人
逢いに来たのになぜ出て逢わぬ
僕の呼ぶ声忘れたか
あなたの呼ぶ声忘れはせぬが
出るに出られぬ籠の鳥
籠の鳥でも知恵ある鳥は
人目忍んで逢いに来る
人目忍べば世間の人が
怪しい女と指差さん
怪しい女と指差されても
誠心こめた仲じゃもの
指を差されちゃ困るよ私
だから私は籠の鳥
世間の人よ笑わば笑え
共に恋した仲じゃもの
共に恋した二人の仲も
今は逢うさえままならぬ
ままにならぬは浮世の定め
無理に逢うのが恋じゃもの
逢うて話して別れるときは
いつか涙がおちてくる
おちて涙は誠か嘘か
女心はわからない
嘘に涙は出されぬものを
ほんに悲しい籠の鳥
「籠の鳥」 作詞 千野かほる
作曲 鳥取春陽
大正14年
大正ロマンだ、いくら日本人だ大和撫子だ大和魂だと現代の私たちが騒いでみたってこの男女のやり取りを切ない気持ちで聞けなければ何のアイデンティティであろうか?と思うのである
女は妾のおかこいさん。
男は旦那以外の若い書生とかであろうか?
夏目漱石の「それから」
宮尾登美子の「櫂」の世界か・・・それさえ知らぬ子供の頃祖母の収集していたレコードの中にこのレコードを見つけた、歌詞が全く見当もつかない心持ちを歌われているのだということだけは子供心にも分かった。
「無理に逢うのが恋じゃもの…」この歌詞だけがなぜかしら心に残り小学生は赤いランドセルを背負いながらこの歌を口ずさみながら下校していた。
歌うときは何時も映画で観た格子の中でお客を待つ遊女の姿が浮かぶ。
吉原の大門を見たこともないのに目に浮かぶ
その世界の躍動感が胸をうつ。
小説みたいな詩だ。
鳥かごの中の籠の鳥。
令和6年7月25日
心幸
7/25/2024, 2:04:50 PM