海月

Open App

「 もう一つの物語。」/ 実話です。

高校生活は次第に落ち着いてきたはずだった。彼と別れてからも、何とか自分の気持ちに折り合いをつけて、新しい生活を送ろうと頑張っていた。彼との思い出も、幼なじみとの苦い過去も、少しずつ心の奥に押し込め、前に進もうとしていた。

そんな時、学校で仲が良かった男友達に告白された。それは突然で、驚きと戸惑いが入り混じった瞬間だった。彼とはずっと友達として接してきたし、そんな風に思われているなんて考えもしなかった。

「ごめん、そういう気持ちには応えられない…」

正直にそう伝えた。友達としての関係は続けたいと思ったけれど、恋愛感情はなかった。断ることに対しては多少の罪悪感はあったけれど、彼もきっと理解してくれるだろうと思っていた。

しかし、彼はそれ以来、少しずつ様子がおかしくなっていった。

最初はただの偶然だと思っていた。学校帰りに彼と何度も同じ電車に乗ったり、偶然にも私の最寄り駅で顔を合わせることが増えたりした。彼も帰り道が同じなのだろうと自分に言い聞かせ、特に気に留めていなかった。

でも、それがただの偶然ではないことに気付いたのは、ある日、彼が駅の改札で私を待っていた時だった。

「なんでここにいるの?」驚いて尋ねると、彼は笑顔で答えた。「なんとなく、君に会いたくなったんだ。」

その瞬間、背筋に冷たいものが走った。彼の言葉に違和感を感じ、そこから先の会話が頭に入ってこなかった。逃げるように家に帰ったけれど、その夜はなかなか眠れなかった。

それから、彼は頻繁に私の下校ルートに現れるようになった。学校では目立った行動を取らず、普通に友達として接してくる彼だったけれど、放課後になると彼の姿が常に私の視界に入り込んできた。最寄り駅で待ち伏せされたり、帰り道で後ろをつけられたり。恐怖が少しずつ心に染み込んでいくのを感じた。

ある日、私はもう限界を感じていた。駅の出口で彼が待ち構えているのを見た時、何も考えずに走って家に向かった。心臓が早鐘のように鳴り響き、無意識のうちにスマホを手に取り、誰かに助けを求めていた。

そして気付くと、私は彼にメッセージを送っていた。別れたはずの彼。もう私たちは何も関係ないはずなのに、それでも、彼の顔が頭に浮かんでいた。震える手で「助けて」とだけ打ち込んで送信した。

「大丈夫?なんかあった?」

彼の声が聞こえた時、私はほっとしてその場に座り込んだ。彼はすぐに駆けつけてくれた。彼の家は遠いはずなのに、私のメッセージにすぐ反応してくれたことが信じられなかった。

「どうしてこんなに早く来れたの?」と聞くと、彼は困ったように笑って「君からの連絡だから、すぐに駆けつけたんだよ!」と言った。その言葉に、思わず涙がこぼれた。彼は黙って私の隣に座り、そっと肩に手を置いてくれた。その優しさが胸にしみた。

「これからは、俺が毎回家まで送ってあげるよ。怖い思いなんてさせたくないから。」

彼のその言葉に、私はただ頷くことしかできなかった。別れたはずの彼が、再び私のそばにいてくれることが、どうしてこんなに心強いのだろう。

それから、彼は毎日私を家まで送ってくれるようになった。学校から一緒に帰ることが、日常の一部になっていった。彼との会話も、少しずつ昔のように戻っていった。

でも、私は知っている。彼との関係が元に戻ることはない。もう彼とは復縁するつもりはないし、彼もそれを理解しているだろう。けれど、今は彼の存在がただありがたかった。彼が私の心に寄り添ってくれることで、少しだけ心の重荷が軽くなっている気がした。

この物語は、私たちの新しい始まりではない。けれど、お互いに支え合うことで生まれたもう1つの物語。

10/29/2024, 11:36:48 AM