「数学暇すぎて迷路作った!!」
「小学生かよ。」
どん、と効果音がつきそうなほど自慢げに、彼が眼前に紙を突き出してくる。裏を見れば、今日配られたばかりの数学のプリントだった。問題は全然解かれていなくて9割が空欄だ。
「……以外とよくできてんな。」
定規か何かできちんと引かれた直線は、落書きにしては高クオリティの迷路を構成している。彼とは長い付き合いだが、昔からこういった余計な所には過度なほどの集中を見せた。
「でしょー?ね、やってみてよ!」
「おー……」
かなり入り組んでいて複雑な迷路だったので、適当に筆箱からマーカーを取り出して道をなぞりながら進んでいく。ペンを持ったとき、目の前に立つ彼が一瞬ぎくりとした気がした。
そこそこ時間が経って、迷路を解き終えゴールする。何とも言えない達成感に満たされながら、してやったりといった心持ちで彼の顔を見上げた。
「どーだ、解いてやったぞ。」
「……ん……うん……そうね……うん……」
なぜか噛み合わない視線に違和感を覚えた。彼はファイルを顔の前に立て、わざわざ俺から顔を遮っている。あまりにも露骨に俺の視線を避けるので、つい悪戯心が湧いた。
ファイルを奪い取り、頭を掴んで強引に視線を合わせた。彼の顔はなぜか真っ赤で、呆然と開かれた口が忙しなく、はくはくと開閉している。
「……なんだその顔。」
照れたような彼の顔のせいで、俺達の間に微妙な空気が流れる。気恥ずかしくなってきて視線を落とすと、さっき解いたばかりの迷路が目に入った。
白い紙に書かれた迷路。ゴールへと続く道は、マーカーで綺麗に塗り潰されている。
「…………えっ、」
『スキ』。確かに、そう浮かび上がっていた。ガバリと彼の顔を見直せば、尚更真っ赤になってうっすら汗ばんでいる彼の姿が飛び込んでくる。
「……お、まえ、なぁ……!」
俺の頬まで熱くなってくるのを感じる。目の前にいる幼馴染は、この複雑に絡み合った迷路に本心を託したらしい。俺がペンを持ったときぎくりとしていたのは、色をつけてしまえばその本心がいとも容易く暴かれてしまうからだろう。
「こういうのは直接言えって……」
天邪鬼な俺達の真ん中に置かれたのはもう、ただの迷路じゃない。変に几帳面で、複雑で、入り組んだ、俺達の心を代弁したようなものだ。
彼の、そして俺の、心の迷路のゴールまで、あと数秒。
テーマ:心の迷路
11/13/2025, 7:09:29 AM