300字小説
魔導書(あなた)と共に
この国の魔導士は魔導書を相棒として魔法を使う。魔導士見習いの頃から私の好きな本は亡き父が使っていた魔導書だった。滑らかな頁に重厚な装丁。表紙には角に保護と装飾を兼ねた金具が着けられ、箔押しで美しい模様が描かれている。
ようやく魔導士になった私は真っ先に魔導書を迎えに父の書斎に入った。棚から憧れの一冊を手に取る。
『……本当に我で良いのか? 今時の魔法の載った、自動魔法検索機能とやらのついた新しい魔導書が良いのではないか?』
戸惑う魔導書を抱き締める。
「貴方が良いの! 私は貴方と父に憧れて魔導士になったのだから!」
『……仕方ない』
魔導書がやれやれと息をつく。
『我が其方を父を超える偉大な魔導士にしてやろう』
お題「好きな本」
6/15/2024, 12:41:55 PM