あるまじろまんじろう

Open App

 走馬灯は天井の染みになりそうだ。
 墨田区の隅にあるアパートの一室。中古のワンルームが狩賀の自宅だ。
 飛行機の音がした。飛行機じゃなかった。耳の裏側を飛んでいた虫の羽音だった。虫は目の前をしばらく旋回して部屋の隅の暗がりへ見えなくなった。
 狩賀はみすぼらしい布団に仰向けで横たわっていた。枕に頭を預けると、何の形に思える訳でもない染みが丁度真上に見える。
「ああ」
 叫んだ。幽かに。特別な意味もない、だけど近所を気にして小さくなった声と、ただそうしたくなった衝動を捻り出した。声はトタン屋根を叩き付ける雨音に押し潰された。
 狩賀の音吐を拾ったのは狩賀だけだ。それで十分だ。と考えてみた。確認できた。それ以上望めないさ。
 狩賀は生きている。


この場所で

2/11/2024, 10:32:50 AM