「……演奏者くんってさ、子供のときどんなだったの」
ある日の演奏会後、権力者がそう言った
「どんな、とは」
「ん〜、性格とか? ボク、あんまり小さい頃のこと覚えてないからさ、演奏者くんはどーかなって」
子供の頃か。天使だったとか、そういうことは言わない方がいい気がしたから言葉を選びながら喋る。
「……天才だと思い込んでたことはあったな。自分は何でもできて、どんな者にだってなれるって」
「お〜、意外」
「ピアノはその頃からやってて、結構小さな年齢からやっていたから上手い方だとみんなが褒めてくれたのもあっただろうけど」
「なんか可愛いじゃん」
彼女はそう言って笑った。
バカにされてるような、でも新鮮だと感じていそうな顔にイマイチ怒れない僕は続けた。
「まぁ、でも今はとっくに天才じゃないって気づいてるから」
「…………なんだなんだ? 言い訳か?」
「……怒るよ」
権力者はまた笑った。今度はバカにしてるというよりも楽しくて仕方がなさそうな顔で。
その顔がとても可愛くて、なんだか憎めなくなった僕はため息をひとつついた。
「……きみの話も思い出したら教えてくれよ」
「…………………………いつかね」
到底話す気なさそうな声で返されたが、まぁいい。
僕が関わってない過去の期間よりも、僕と過ごした日々の方が絶対に長くさせる自信はあるから。少しの過去なんて気にもとめないほど、長い期間をここできみと過ごしたいなんて、僕はそんなことを考えてしまった。
6/23/2024, 2:22:11 PM