【あなたがいたから】
じわじわと頬を汗が伝う。雲ひとつない真っ青な空が目に痛い。気持ちわ落ち着けるために、深く息を吐き出した。
夏は嫌いだ。イヤなことばかりを思い出す。暑くて、苦しくて、悲鳴をあげても誰も助けてはくれなかった。幼い日の癒えきることのない傷痕が、私の心臓を冷たく覆い尽くしていた。
「やっぱりさ、夏って良いよね。空が綺麗で!」
あなたの朗らかな声が、不意に鼓膜を揺らした。にっこりと無邪気に笑ったあなたは、私の顔を至近距離から覗き込む。
「ねえ、今度一緒にひまわりを見に行こうよ。有名なひまわり畑が近くにあるらしいんだ!」
弾むような声が耳に心地良い。私の過去を知っても、『かわいそう』だと決して言わなかった、ただ一人のひと。その存在にどれだけ私が救われたか、きっとあなたは知らないのだろうけれど。
「うん、良いよ。一緒に行こう」
気がつけば胸を埋め尽くす不快感は、すっかりとどこかへ消えていた。あなたと繋ぎ合った手の温度だけを全身で感じながら、私は静かに瞳を閉じた。
――あなたがいたから。大嫌いなこの世界で、それでも私は息をしている。
6/20/2023, 1:04:33 PM