また明日
幻の防波堤
おれが住んでいる町は人が少ない、たぶんカソカとかミソカツってやつ。最近知った。
この間テレビで東京の横断歩道にうんと詰められた人の集まりが途切れたりしないでずーーっと続いてるのみてさ、お母さんに聞いたんだ。東京ってどのくらい人が住んでるのってさ。
そしたら「社(やしろ)町に住んでいる人全員を千倍にしても到底届かないんだよ」だって。よく分かんないや。
あ、社町ってのはおれの町の事ね。
学校の先生、先ぱい、友達、みんな合わせても全身の指で数えれちゃう。授業も一緒だし体育も一緒、一緒だと楽しいからあんまり考えた事無かったけど、都会だとちがうみたい。
学校は大好き、けどおれが一番家まで遠いから下校すると絶対一人きりになる。ちょっとだけ寂しい。
でもねもう平気だよ友達が出来たから。
いつもと違う道を通ったら道の真ん中に小さなお家の箱が落ちててさ、重かったけど頑張って道の端に動かしたの。土が付いてたからハンカチ使って少し拭いてさ、日も沈んで来たし帰ろうと思ったら後ろから声が聞こえてさ、振り返るじゃん。
おれと同じ位の男の子が駆け寄って来るの。
「ありがとう」
突然そんな事言うからふいんきに押されちゃって
「どういたしまして?」
て答えちゃった。何のことか分かんないけど。
「一緒に遊ぼうよ」
って誘ってくれた、本当は遊びたかったけど、あんまり遅いと怒られちゃうから
「また明日ね」って約束して帰ったんだ。
その次の日から学校帰りはそこを通って、学校がない日もその子と一日中遊んで、この町をたんさくしたり、昔の町の様子を聞いた。
物知りで頭が良くて、一番すごいのが占い!
明日の天気やテストの範囲を教えてくれたり、夕飯のご飯も当てて見せた。
一日一つだけだけど、毎回聞くのが楽しみだった。
抜き打ちテストとか、誰が休むとか、お化けが出るらしいみたいな。
でも突然占いを辞めちゃった。あの時様子が変だったし、あの子は空を見上げてぶつぶつ喋って何か考え込んでた。
「調子が悪いみたい、もうしばらくは見れないや」
それからあの子は、とにかく大きな石を積んで積んで山にする遊びをしよう。って、勿論断る理由もないし最初は楽しかったんだけど、次の日もその次の日もずっと同じ遊びが続いて、「また明日も来てね」とか言われても
どうせ同じだろうしつまんないからヤダって断った。
そしたら慌てて
「あ、明日で最後だから、明日で終わりにする。本当に後少しなの、それでなんとか出来るんだ。お願いだよ」
おれの服を引っ張って泣きそうな顔をするから、仕方なく折れてあげた。
「本当に明日だけだよ」
次の日おれはあの子と石の山を完成させた。出来上がりは山と言うよりレンガの壁みたいな、そのレンガが石に置き換わった奴。ギリギリ向こう側が見える高さに作ったから、崩れないか心配だったけど大丈夫らしい。
もうへとへとで他の遊びをする気力も無くて、そこで帰ろうってなった。
「じゃあ、また明日ね」
「...あ、うん、また、明日、ね」
そのままお家に帰ってお風呂済ましてご飯食べて、お布団に横になって寝てたら。
突然外からザーーーって音がしたんだよ、布団から飛び起きて窓見たらすっごい大雨、何も見えない。
よく見たかったからちょっと開けたら畳がびしょ濡れ、お母さんが怒ってスパーンと閉めた。あとやっぱりめちゃめちゃ怒られた。
お山の方から大きな音を立てて何かが近づいて来た、そして止まった。それはわかったんだけど見ようにもお母さんが通せんぼしてさ、全然窓に近づけない。
お父さんは何処かとお電話してて、おじいちゃんはおれを離してくれないし、本当につまんない。
時計の針が一周した位に、雨の音が止んだのね。
お父さんが叫ぶんだ、早く家から出なさい。
お母さんお父さんおじいちゃんおばあちゃんにあと猫。全員乗り込んだら急発進、訳が分からなかった。
だから車の後ろの席からお家の方向を見たんだ。
山の一部が崩れていて途中の高台で引っかって流れが止まってた。その下、やまのふもとにおれの家があるから危うく飲み込まれるところだったみたい。
よーく見ると何故か別の場所で石のお山を作ったはずなのに、その高台に移動してて土砂を止めてた。なんでここにあるの?
結局はあの壁は崩れて家は無くなっちゃったんだけど、それでも全員無事なのが奇跡らしい。
あれからあの子とは会えていない。
また会えたら良いな。
終わり
5/23/2024, 1:58:19 PM