池上さゆり

Open App

 はたから見れば、幸せな結婚式だったのかもしれない。だけど、私にとってそれは呪いのような日々の始まりだった。
 自分のセクシャルがレズビアンだと気づいた時にはもう手遅れだった。初恋の人に彼氏ができて、毎日自慢話を聞かされた。そして、その初恋の人にずっと「早く彼氏作ってよ。ダブルデートしよう」と言われ続けていた。それがどれほどの苦痛だったのか、彼女は知るはずもない。結局、彼女への好意を明かすことなくお互い社会人になった。
 もう、学生の時のようにずっと隣で笑い合えない日々が続くのだと嘆いていた。
 そんな私に追い討ちをかけるように、彼女から結婚式の招待状が届いた。今まで一番近くで愛してきた人が、他の人と結ばれる瞬間なんて見たくもなかった。だから、私は仕事を理由に断ろうかと思っていたが、それもできなかった。彼女が美しく着飾った姿を見ないでいられるだろうか。諦めるためにも、この目に納めなければならない。
 期待していた通り、結婚式で現れた彼女は世界一綺麗だった。誰よりも幸せそうな顔をしていて、時折涙を流しては周囲の人に感謝を伝えていた。順番に各席を回りながら会話をしていく。ついに私のそばにきた彼女に私は「綺麗だね」と言うだけで精一杯だった。
 こんな私にも彼女は笑って「今度はあんたが幸せになるんだよ」なんて言っていた。
 相手の幸せを願っていたのはお互い様なのに、私たち二人はいつまでも一緒にはなれなかった。だから、彼女を安心させるためにも、私は愛のない結婚をした。もちろん、結婚式には彼女も呼んだ。夫婦ともに出席してくれてお祝いしてくれた。
「旦那一筋でもいいけど、私とも仲良くしてよね」
 そう言って涙を流した。もしかして、私たち両想いだったのだろうか。どうして、この瞬間まで気づけなかったのか。自惚れでもいい。ここで、彼女の唇を私のものにしてしまいたかった。
 だけど、そんなことできるはずもなく、私は「ありがとう」とだけ返した。
 これから、二人の一番隣にいるのは私たちじゃない。いつか、本音を聞ける日が来たら、私の初恋について語ろう。

3/13/2024, 10:43:24 AM