しば犬

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夕立のあとは、爽やかな涼しい風が吹く。
そして、決まってその日の夜は晴れるのだ


リーンリンと踊るようになく鈴虫の声
近くの田んぼの横を流れる水路の音
標高の高い田舎の夜は涼しい上に心地よいBGMがしっとりと流れる
親戚が一堂に会するタイミング、久しぶりの帰郷
下の階の居間から聞こえる家族たちの談笑
俺は1人、元自室のベランダで酒を煽り煙草を吸う
酒は少人数で楽しみたいものだ。だがしかし下の階で飲むにはちときつい......
出来上がっている大人が何人もいるんだ、プライバシーもデリカシーもあったもんじゃない
トイレに行くついでに、新しい煙草と酒を買うことを決心し、歩いて20分の所にあるコンビニへ向かう。

よく晴れている訳では無いが、月の灯りが夜道を照らす
青い光が灯るコンビニの看板が俺を照らす
とりあえず、酒とツマミ......以外にあるんもんだなと感心しつつ
いつもの酒をとる。そして不意に横から声がした
「ねぇ、久しぶり!元気しとった?」
初恋の人の声だ。
ガキの頃からずーっと一緒で高校卒業するまでいつも隣にいた人
「......あ、久しぶり。酒買いに来たん?」
「うん!そっちこそー、いつこっち帰ってきたん?てか何買ったん?」
「うーん、ビールと甘いヤツー」
「昔から、甘いの好きだったね。私さ今暇だからさ一緒に飲まん?」
思いもよらない事で内心戸惑ったが暇を持て余していた俺からしたら最高の誘いだった
「......おう、いいよ。いつもの公園どう?」
「有り!てか覚えてたんやね......」
嬉しそうな、悲しそうな、入り交じった顔を彼女はした。
昔からわかりやすいやつではあったが、大人になって少し読みにくくなったものだと変化を感じる。

袋いっぱいに買った酒とツマミを持って、昔からある公園へと歩く。
近況報告を踏まえた話をひっそりと楽しく繰り広げる。
あぁ、安心するな......と心から思った。
都会の喧騒や要らないところにまで配慮しなければならない窮屈な生活をしていたからこそ分かる。

「やっぱ、楽しいねー。お酒もさこうやって二人で飲めるようになったやね。」
酒が入り上機嫌な彼女はそう呟く
「昔も良かった。今もいい。変化を感じて一緒の時間を過ごせるのがとっても幸せ!」
俺は、1人静かに頷き酒を飲む。
ふと、上に目を向け空を仰ぐ
「......?あー、今日は月が綺麗だね!」
俺の顔を見た後に同じく空を見上げた彼女が言う。
「あぁ、すごく綺麗だな。ありかもな......」
秘めていた思いが溢れそうになる。
「へへ、冗談でも行ったらあかんことあるんよ?」
分かってる。そう、何度も頷きガバガバと酒を飲む

あの日、高校最後のあの日。君と見上げる月があまりにも眩しくて、綺麗でずっとこのままの時間が止まってしまえばいいのにと思った。
だから今見上げる月が恋しくて切ないのだろう。

用事が済んだら、ちゃんと墓参りしに行くから
お前の分までちゃんと生きるから
だからまた、今日みたいに一緒に月を見上げてくれ

9/14/2025, 2:15:40 PM