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タイムマシンは成功した。

長い時間旅行から帰ってきたとき、世界は薄桃色の底にあった。夜明けと朝焼けがないまぜになった
海がしずかに揺らめき、透明な光に溺れている。

死んでしまった君の姿を追いかけて、もう時間の
感覚もなくなるくらいの旅をした。

僕にとっては、物事の最初も最後もないようなものだ。タイムマシンさえあれば、いつでも朗らかな君の姿をみることができるから。

君がまだ元気で、僕の隣にいた頃。僕たちはよく
小さな夜空を観察した。

夜鷹の声が笛の音のように響いて、流れ星は夜の縁を永遠に描いていた。

昔から記憶力は抜群によかった。僕のあまりに細やかな記憶に、君もいつか笑っていた。

それなのに今、僕の瞼の裏に浮かんでくるのは
およそ地球のどこでもみられるであろう景色ばかり。これからもいつでも観られる、そんな夜。

美しい世界をひとしきり眺めて、再びタイムマシンにのりこんだとき、ふいに涙がおちた。

君と最後に会った日は、もう思い出せない。

6/27/2023, 6:32:46 AM