ほんの暇潰しのつもりで、クラスの隅でいつも縮こまっている陰気な男に声をかけることにした。
俺は所謂陽キャ、一軍と呼ばれるような人間で、明るく、友達だって数え切れない程にいる。
そんな俺にだって暇な時はあるし、その暇を潰したいとも思う。
人間として中々に最低な行為だとは思うが、そんな行為さえ黙認されるのが、同調圧力に満ちた現代社会のいいところだ。
そんなわけで、俺は奴を呼び出してみた。
放課後の夕暮れの中向かい合うと、中々にデカい。
俺だって小さくはないはずなのに、それでも首を持ち上げて見上げないと顔が見えない。
「……え、えと……その……は、話、って……?」
俯き気味で、見るからにもじもじとしながら話す目の前の男は、普段だったら気にも留めないタイプだろう。
「俺、お前のこと好きだわ。付き合ってくんね?」
半分笑いを含んだような、我ながらあまりに軽薄な告白。
流石にこんなのを信じるような馬鹿はいないだろうと、そう高を括っていた。
嘘告だとバレて最低だと言われようと、逆に本気で照れられようと、どちらに転んだってこの暇を潰すだけの面白みはあるだろう。
そんな、軽い気持ちだった。
「え……ほ、ほんと……?ほんとに……?」
大柄な体躯が、いつの間にか眼前まで迫っていた。
俺のより関節一つ分は大きい手に手首を押さえつけられて、そのまま校舎裏の壁と腕の間に閉じ込められた。
「は……?ちょ、離せ……冗談だって!間違い!嘘告!そんなんも分かんねぇのかよ!」
陰キャが調子乗りやがって、なんて強気に出たのが間違いだった。
そもそも、モテそうだからとバスケ部に入っただけで碌に練習にも出ないような俺が、体格で劣る相手に勝てるはずもないのだ。
「ふ、ふへへ……嬉しい……ま、まさか……君も同じ気持ちだったなんて……」
頬を染め、引きつりながら口角を上げる様は、いっそ悪魔のようですらあった。
本能的な嫌悪感と恐怖に包まれ、ぞわりと鳥肌が立つ。
「っ離せって!嘘だっつってんだろ!?」
半狂乱になって振り払おうとすれば、今度は腕が腰に回され、そのまま全力で抱きしめられた。
あまりに強いそれは胃を圧迫して、上記も相まって吐き気を誘発する。
「い、今更間違い、なんて……言わせない、よ……?……そ……それに……間違いでも、もう取り消したり……し、しない、よね……?」
長い前髪から覗いたその目があまりに恐ろしくて、俺は頷くことしかできなかった。
テーマ:たとえ間違いだったとしても
4/23/2026, 8:43:48 AM