霜月 朔(創作)

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フラワー




腐りきった社会の泥濘の中で、
誰にも気付かれることなく、
独り、咲いていた私を、
貴方はどうして、
摘んでくれたのですか。

貴方に出逢って、
私は初めて、
人の優しさを知りました。
私は初めて、
存在が赦された気がしました。

そして、ひとひらの夜に、
私は芽吹いたのです。
貴方の手のひらに、鼓動に、
あの……温もりに抱かれて。

“The flower that blooms in adversity is the rarest and most beautiful of all.”
貴方が私に教えてくれた言葉。
貴方は、覚えていますか。
その意味を、今なら理解できます。

私は貴方の陰でしか、
生きられないのに、
貴方は私を見詰めながら、
何処か遠い場所を見ていた。
それが、私には、
どうしようもなく、
耐えられなかったのです。

だから、ねえ――
今、ここに、
花を咲かせましょう。

貴方と私の血を吸って咲く、
真紅の花を。
誰にも踏まれぬように、
誰にも見つからぬように、
暗い、暗い森の奥で。
二人きりの土に、
埋めてしまいましょう。

これで永遠に、離れません。
静かで、穏やかで、優しい世界。
貴方が私だけを愛し、
私が貴方を壊す。
これ以上、幸福な世界があるでしょうか?

でも――安心して下さい。
私も、すぐ、そちらへ参りますから。

さあ、目を閉じて。
最期まで、優しく、愛おしい、
私だけの……貴方。


4/8/2025, 5:40:20 AM