「彼女の願いと私の目標」
学校行事の際は、カメラを向けられると逃げていた。
写真に撮られることは苦手だ。
自分が写ったものを見返すこともない。
在学中、すでに『卒業したら同級生とは会わない』と決めていた私。
もう会うことがない人の手元に自分の写真があり続けることが嫌だ、という理由もあった。
「そんな学生時代だったのに、今は写真家なんですね」
インタビュアーの相槌に頷く。
「それが何故、写真を撮るようになられたのですか」
「美術部だったんですけど、林間学校のときに見た風景を文化祭で展示する用の作品として描こうとして……初めてそういう、学校行事の時の写真を買ったんですよ」
「参考資料として?」
「そうです。でも、ああいう写真って人物がメインじゃないですか」
「あー、まあたしかにそうですよね」
「だから、自分で撮り始めたんですよ」
数年は風景を撮っていた。
自分が描きたい風景を探して、撮って、描いて、また撮って……そんな日々。
そんなとき、あの人と出会ったのだ。
「彼女をモデルに撮りたい。私が撮らなければ、って。今から思うと何様だって感じなんですが、そのとき何故か強く思ったんです」
ローカル局からの取材を終え、閉場時間となった会場で息を吐く。
昨日から始まった、私の初めての個展。
彼女が願ったことは、やがて私の目標となった。
あの人の生きている証を残したくて始めたことが、私の世界を広げてくれた。
彼女と出会わなければ、今私はここにいない。
たったひとつの出会いで、それまでの生き方も考え方も変わってしまうものだなんて、学生時代には思いもしなかった。
ひとりきりの会場を歩く。
靴音が響いて、改めて今ここには自分しかいないのだと実感する。取材で昂っていた気持ちがようやく落ち着いてきた。
会場の入口から一番近い写真は、彼女の横顔。
池の前で山を眺めている。
「次の目標は自分で決めないとね」
今はもう空の向こうにいる彼女の声が聞こえた気がした。
────過ぎた日を想う
10/7/2024, 3:31:15 AM