於菟

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「おうじさまとけっこんできなきゃ泡になっちゃうの
かわいそうだね」
絵本の中のお姫様は、愛した人を殺すこともできず、
声も出せず泡になった
今でも思う。そんな彼女は心底可哀想
自分が助けたことも伝えれず横取りされた挙句
泡になって消えたのだから

高校生になって、恋をした
初恋だった
頑張って話しかけて、仲良くなって
連絡先も交換して
勝手に両思いなんじゃないかって浮かれてた
「ごめん!!俺彼女できたからもう遊べねぇわ」
「あ〜、!!まじか笑全然大丈夫!!うん、幸せに!!」
去っていく彼の足音と同時に
ガラスの割れた音が頭に響く
「好き」って言葉が喉に突っかかって気持ち悪い
なのに彼の笑顔はずっとずっとヒビが入らず
綺麗に残ってる
涙も出ない
急だったもん
私の初恋、こんなもんか....
帰り道
いつも見ているはずの、夕日が映る綺麗な海。
水平線が綺麗だけどもう見飽きた。
見たいつもの景色の筈なのに、
なんだか段々滲んできて
頬に涙が伝う
「どっかのプリンセスみたいに、泡になれたらなぁ」
そんな私の小さな願いは
静かな波音に攫われて
きっと泡になった彼女に届く

『泡になりたくなかった彼女と
泡になってしまいたい私』

8/5/2025, 1:10:25 PM