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やばい、腹を下した…。35歳にして人生詰んだ。
長い高速バスの旅の途中、最悪の事態が頭を過る。

次のサービスエリアまであとどれくらいだ…。
冷や汗が止まらない。

ここ数日間で口にしたもの全てに対する恨みが
ふつふつと湧いてくる。何が悪さを…。

しかし、人間としての尊厳を守るためには、
行動せねばならない。

スマホの操作すら出来そうにない俺は、
咄嗟に通路を挟んで隣に座っていた
優しい見た目のご老人に声をかけた。

「次のSAまであとどれくらいかわかりますかね?」

その答えは、俺の人生を終わらせに来た。

「うーん、あと40年くらいってところじゃないかね。」

意味がわからない。年?分ではなく?
こいつは何を言ってんだと、本気でキレかけた。

「そのくらいに見えるな。」

見える?何が?ただでさえ焦っているのに
意味のわからんことを次から次へと…
聞いたのが間違いだった。

もう限界だ。人様に迷惑をかけるだけでなく、
人としての尊厳も失われてしまうのだ。

その瞬間に目が覚めた。夢か…。
嫌な夢だな、冷や汗もかいてるし。

ブラック企業でのストレスが溜まりすぎて、
身体のあちこちがおかしい。
もう働き疲れて、いっそ楽になってしまいたい。
よからぬ事を思い浮かべ、また眠りについた。

不思議なことに、同じ夢の続きが始まった。
バスの中で依然腹痛と戦う俺は、ついに決心した。

「運転手さんすみません、降ろして貰えないですか?」

どうされました?と聞いてきたので、事情を説明した。

「困りますねぇ、原則途中下車は禁止してるので。」

「そこをなんとか!限界なんです!本当に!」

「降りたら待たないで出発しますよ?後悔しません?」

「…大丈夫です。ここまでで。もう、いいんです。」

「そうですか。では、お疲れ様でした。どうかごゆっくり。」

そうして俺は、バスを降りた。
その後のことは覚えていない。

後に俺は、狭く、寂しく、薄暗い
マンションの一室で、首を吊った状態で
発見された。

「旅の途中」





1/31/2025, 4:40:22 PM