テリー

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—打てよ、打てよ。打て打てよ。お前がやらなきゃ誰がやる。
「かっ飛ーばせー!たーかちほ!」
固く結ばれた指が、祈りを乗せて一層締め付けられる。
—さあ、フルカウント満塁。ピッチャー振りかぶって……。
キィン、と響く鋭い金属音と共にドッと湧き上がる歓声。
ピッチャーが青ざめた顔で振り返る。客席も、カメラも、茶の間も、一斉にその視線の先を追った。
美しい放物線を描いた打球は些か伸び悩み、天高く掲げられたグラブへと吸い込まれて行った。

学校総出で応援に行った甲子園地区予選決勝。9回裏、逆転のチャンスが訪れたが、センターフライでゲームセット。敗退してしまった。
瑞樹は散々日焼け止めを塗ったものの、顔も腕も真っ赤に腫れ上がってしまった。
今日は振替休日であったが、日焼けで身体が怠いからと、瑞樹は冷房の効いた部屋で二度寝をしていた。
だが母の言葉で飛び起きる。
「みずきー。リョウタ君来てんで」
「…は?!」
慌ててパーカーを羽織り、瑞樹は玄関まで向かう。
「うっす」
「っす…」
ランニング途中で寄ったのか。涼太は上下ランニングウェアを身に纏っていた。少し汗ばんでいる。
すぐ瑞樹は後悔した。寝起きそのままで出迎えてしまったし、なにより。
「いや、自分声枯れ過ぎやろ」
「……うっせ」
昨日応援で叫び過ぎたせいか、喉はささくれ立って聞き取りにくくなってしまった。
「…ごめんな。応援してくれたんに」
「…ぇぇょ」
カッスカスの声で答える。わざわざ謝りに来たんだ。そう思うと、胸がギュッと苦しくなった。
もっと気の利いた事を伝えたいのに。瑞樹は必死に唾を飲み込み声を発した。
「…また来年で、ええよ」
同時に鼻の奥がツンとした。ウチが泣くんは違うやろ。そう言い聞かせ、俯く。
「…おう。来年は絶対連れてったるよ」
チラリと目をやった涼太の顔は、瑞樹よりもっと日焼けして黒々としていた。肌が坊主頭と一体化して、まるでタピオカみたいだ。
気を揉んだかと思ったが、少し目が赤くはあるもののその表情は清々しいものであった。
「お前ん声、めっちゃ聞こえたわ。来年も頼むで」
「アホ。聞こえるかいな」
軽く小突くと涼太は嬉しそうに笑い、踵を返した。軽く手を振りその背を見送る。
(来年も、いくらでも応援したるから。やから)
がんばれ。瑞樹は小さくなる背に檄を入れた。

≪声が枯れるまで≫

10/21/2024, 2:01:55 PM