ステージ上のモニターにライブ開始までのカウントダウンが表示されると、ファンの歓声が聞こえてきた。
のどをすり潰すような悲鳴が愛の重さを感じさせる。
髪型を整えてマイクを調整する。
スパンコールがこれでもかと付けられた衣装は、光の少ない舞台裏でも動くたびにキラキラと反射していた。
爆音で登場の音楽が流れ始める。
早いビートが腹を殴る。
始まった…
疲弊した心を腹の奥に押し込めて笑顔を作る。
「みんなー!いくよー!!」
元気よく飛び出して、定位置につきダンスを始める。
視線は真っ暗な客席へ、でも意識は定位置がずれないように床へ。
スポットライトの熱ですぐに汗が流れ、衣装が張り付く。
今日のステージはとても広い。ペンライトの波が視界の端から端までうねる。
数年前は想像にもしていなかったステージに立っているが、心は晴れない。
疲れたのだ。ファンという追い風に。
デビューした頃はファンの応援が力になっていた。
歓声も応援のレターもドーパミンの材料だった。
しかし追い風は強すぎると足元が追いつかない。
日に日に増していくライブ、テレビ出演、雑誌インタビュー、映画出演。
体力の限界だった。ほんの少しだけやる気が出せない時ファンは敏感に感じ取った。
人気が出て天狗になったやつ、ファンは自分をそう解釈した。
追い風は時に向かい風になる。
今やペンライトの波の中に自分のメンバーカラーはほとんどなかった。
1/8/2025, 11:05:59 AM