「5月2日のお題が『優しくしないで』だった」
今回はひらがなだから、「易しくしないで」も「優しく竹刀で」も、「市内で」ともできるな。
某所在住物書きは「優しく」と「易しく」と、それから「矢指区」の可能性をそれぞれ考えて、
結果、ネットで矢指町を見つけた。
神奈川県の地名だという。 物書きが投稿している連載風の部隊は東京だ。ザンネン。
「天候と花粉に関しては、優しく、してほしい」
今日は日本海側が大荒れとのこと。
大積雪の報道もある。 やさしくしてほしい。
――――――
最近最近の都内某所、某アパートの一室、夜。
部屋の主を藤森といい、馴染みの茶葉屋から仕入れてきた冬摘みの台湾烏龍茶を淹れながら、
チラリ、来客者が座っているテーブル式コタツを見遣って、ゆえに客と目が合う。
長いこと一緒に仕事をしてきた後輩の高葉井と、
近所の稲荷神社に住まう子狐である。
「わぁん、コンちゃん、優しくしないで。ヘコんじゃうから優しくしないでぇ……」
子狐は高葉井に遊んでほしいらしく、コタツのテーブルによじ登り、彼女の頬だのアゴだのをベロンベロン、べろんべろん。
「コンちゃん。ああ、モフモフ。エキノと狂犬病の危険性ナシなコンコン、ばんざい……」
なに、エノキ?エノキキノコ?
コンコン子狐、言葉が分かるのか、明確に高葉井の言葉3文字に反応して、尻尾をビタンビタン。
どうやら食いしん坊らしい。
遊び気より食い気とは、よく言ったものである。
「で?何があった」
小さなティーポットとティーカップとをコタツに運んで、まず1杯、高葉井に差し出す藤森。
台湾茶特有の甘香を鼻いっぱいに吸い込んだ高葉井は、大きなため息ひとつ吐いて、ぽつり。
「ガチャ爆死したぁ……」
あー、なるほど、いつもの高葉井だ。
藤森は秒ですべてを理解し、心配することと注意を払うことをやめた。
仕事からの帰宅途中、冬の山野草を撮りたくて寄った稲荷神社で、子狐抱えてヘコんでいる高葉井を見つけたのだ。
あんまりヘコんでいたから、ひとまず暖かい自分のアパートに入れて、心の傷を診てやろうと思った。
結果がコレである。
高葉井には推しのゲームがあった。
「世界線管理局」なる架空の組織が、世界間で発生するトラブル等々に対処し、敵対組織と戦う様子を描く、いわゆる「組織もの」。
最近「過去編」なるキャラの実装が増えてきた。
藤森としてはよく分からない。
「お茶あったかい。あまい」
「台湾茶だ。コレの冷たいタイプが、ペットボトルでコンビニに並んでる」
「何回か、飲ませてもらった記憶ある」
「以前出より、少し高めのものを出した」
「いくら?」
「50で以下略」
「いかりゃく……???」
おかね!しょーばい!
高葉井をベロンベロン舐め倒していた稲荷の子狐、
稲荷の狐らしく、今度は商売繁盛の言葉を感知したようで、藤森の方に尻尾をぶんぶんぶん。
「こら。お前には熱過ぎる」
ポットやカップの匂いを確認しようとしたので、子狐をテーブルから持ち上げ、膝の上に拘束した。
子狐がジタバタ暴れる様子は、完全に食いしん坊だの暴れん坊だの、遊び好きだのの子供のそれ。
腹と頭を撫でてやると、一気に静かになった。
「ガチャは運なんだろう」
途端にヘソ天をキメ込む子狐。小さなモフモフを膝に抱いて、藤森が言った。
「ガチャで悪かった分、私の部屋で少し良い茶が飲めたと思って。機嫌をなおせ」
「うぅぅ。だから、優しくしないでってぇ」
ひーん。腕で目を覆って泣き真似をする高葉井は、それでも少し元気が戻ってきた模様。
藤森の厚意をじっくり堪能して、心と体を温めた。
藤森が淹れた台湾茶の価格が結局いくらだったのかは、最後まで分からないままだったとさ。
2/4/2025, 4:01:56 AM