Nonoka

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『5年越しの手紙』

拝啓

 冬の終わりが近づき、暖かな日差しが降り注ぐ季節になりました。あなたはそちらで元気にしていることでしょう。

 あなたがいなくなったのも、こんなふうに陽気でなんて事のない日でしたね。あれから5年の月日が経ちました。この節目に、私は初めてあなた宛の手紙を書きます。

 あなたは気付いていなかったかもしれませんが、私を含めあなたの周りの人たちはみんな、あなたの様子がおかしいことに気付いていました。でも、あなたはきっと私たちにいつか打ち明けてくれるだろう、と信じて何も聞かずにいたのです。何気ないふりをして、あなたとのこれからを疑ってすらいなかった。

 初めの頃、私たちはひどく後悔していました。どうしてもっと早くに尋ねなかったのかと。尋ねていればあなたはきっと困りながらも教えてくれたことでしょう。でも、しばらく経って私たちは間違っていなかったのかもしれないと思うようになりました。あなたは私たちを信じていたからこそ、何も告げなかったのですね。私たちはあなたが去っても大丈夫だと信じていたのですね。

 それは半分正解で、半分間違いです。確かに私はあなたが去った後も毎日いつも通り過ごし、たまにニュースで盛り上がり、あなたが去る前と変わらぬ暮らしを続けていました。でも、ふとした瞬間にあなたがいた頃を思い出すのです。今この瞬間もあなた宛に手紙を書いているというだけで、あなたとの思い出が次々に浮かんできます。

 つい、私の話ばかり書いてしまいました。あなたにこの手紙が無事届くのならば、あなたのお話が聞きたいなぁ。

 この手紙が、どうかあなたに届きますように。

敬具




お題【何気ないふり】

3/31/2026, 6:02:23 AM