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「ね、×××は俺から離れてったりしないよね?」
痩せこけた細い手のはずなのに、握りしめる力は信じられないほどに強い。大きな目のさらに奥の何かが、自分を捉えている。
「当たり前でしょ。離れてくわけないだろ?」
実験中だったフラスコを机上において、空いている左手でその握りしめてくる手を優しくさすってやる。すると、安心したのか、ゆっくりと手を離した。
「だよね、よかった。もう、俺アンタしかいないんだ。捨てないで、おねがいだから…」
顔を伏せ、震え始める睫毛を見つめる。いつもはきらきらしているそのターコイズブルーの瞳が、不安で揺れている。
今にでも目から溢れそうなその粒を指で拭ってあげる。
「もう、心配性だなぁ。泣かなくても大丈夫だよ」
俺に堕ちて、そのまま。君には俺さえいればいいんだよ。

「当たり前でしょ。離れてくわけないだろ?」
ふわふわの金髪を揺らして微笑んでこっちを向いてくれる。
とっても優しい、俺だけのヒーロー。
俺が周りから遠ざけられていた時に、声をかけてくれた。
そこから、ふたりで研究室を造り上げて、ずっと一緒。
「だよね、よかった。もう、俺アンタしかいないんだ。捨てないで、おねがいだから…」
嗚咽を我慢して、そう告げる。上向いたら溢れちゃいそうだから、下向いて、顔を見ないようにした。
そしたら、さっきまでフラスコを握ってた左手で、俺の目元に滲むものを拭い取ってくれる。
「もう、心配性だなぁ。泣かなくても大丈夫だよ」
俺だけに見せてくれる笑顔。アンタだけに見せる俺のキモチ。ぜんぶ、アンタだけのモノ。
アンタさえいればいい。ただ、アンタだけ。

5/12/2025, 12:31:04 PM