虹湖

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「ママ、あしたのかけっこ、いちばんになれるかな。」
添い寝している娘が興奮気味に問いかけてくる。
「そうね。がんばって走ったら、きっといちばんになれるわよ。そのためにも、早く寝なくちゃね。」
明日は幼稚園の運動会。コロナ禍が少し落ち着き、初めて家族観戦が許されてから初の大型イベント。家族はもちろん、本人もとても楽しみにしている。
「そうだよね。もうねるね!おやすみなさい。」と言って、娘は目を閉じた。
ええ、おやすみなさい…と言いかけた時、
「あ!」
忘れてた!と言うように娘が声を発し、パチっと目を開く。
そして布団から出ると、カーテンをシャーっと勢いよく開けてしまった。
「えっ、何、どうしたの?」
慌てて駆け寄り娘を見れば、窓の外に向かって両手の指を組んでお祈りしている。
外は暗闇。ただ、明日の快晴を思わせるように、まあるい月がひときわ輝きを放ち、娘を照らしている。
真剣にお願いをする娘をしばらく見つめていると、
「これでよし!ごめんねママ、はやくねようね」
と布団へ戻り、カーテンを閉め横に並んだ私に布団をかけてくれる。
「ありがとう。ところで、何をお願いしたの?」
「あしたのかけっこ、うさぎさんもおうえんしてねっておねがいしたの」
「うさぎさん?」
「うん。ウサギとカメのうさぎさん、さいごはまけちゃうけど、はしるとすっごくはやいんだよ!だからね、まけないようにおうえんしてねっておねがいしたの」
嬉しそうに、ちょっと照れた笑顔で私を見る。
幼稚園の中で聞いた物語によって、娘の中で、月にもうさぎがいるのだと、信じているようだ。てっきり月にお願いしているのかと思ったら、違ったようだ。
「そうだったの。じゃあ、うさぎさんにも見えるように、頑張らなくちゃね。」
そう言って頭を撫でる。
「うん!がんばる!じゃあママ、おやすみ…ふぁ〜」
返事の後にあくびが出て、目をこする。
そろそろ眠くなってきたみたい。
「おやすみ」
明日はお弁当づくりのために私も朝早い。
このまま一緒に休もう。
健やかな寝息をたてる娘の横で、かけっこで1位になって喜ぶ娘を想像しながら、私も眠った。
(明日はお願いしますね)
月にお願いしながら…。

5/26/2023, 11:50:36 PM