一尾(いっぽ)

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→短編・おくれ毛

 屋台のライトがオレンジとか白とか、明るくて眩しい。昼間みたいだけど、灯りから離れるとすぐ横は夜。人が塊みたいに集まってる、近所の商店街のお祭り。
 彼女が俺の手を引いている。えり足のおくれ毛が目について離れない。
 浴衣の背中。帯の結び方にも名前があるって教えてくれたけど覚えてない。そんな余裕なかった。いっつもきっちり髪を束ねてるから、顔とかに出てる髪のことを言ったら「おくれ毛だよ」と笑われた。
 そもそも浴衣を着てくるなんて聞いてなかった。一番かっこよく見えるはずのTシャツ、なんかダサい。俺、カッコ悪い。
 いつもと違いすぎてどうしたらいいのかまったくわからない。姉ちゃんに化粧してもらったっていう唇はピンク色でピカピカしてる。目がいつもよりも大きいような気がする。なんかいい匂いがする。いつもは大口開けて笑うくせにさ、今日はクスクス笑ってばっかり。
 どうしてこんなに心臓がバクバクするんだろう。付き合おうって告白したのは中1の3学期。あの日よりも緊張する。なんか彼女、知らない女の子みたい。
 あれも美味しそうとか、くじ引きやろうかなとか、彼女が俺の手を引く。
 手を引かれる俺はまるで小学生のガキみたい。周りから弟とか思われてたらサイアクだよな。せめてあのおくれ毛がなければ、もうちょっといつも通りに振る舞えそうな気がするんだけどな。

テーマ; お祭り

7/28/2024, 5:54:37 PM