始まりはいつも
始まりはいつもカランと鳴る鐘の音その
ドアを静かに叩く鐘の音を合図に
そのお客様は毎日午前中の九時ぴったりに
カウンター席から少し離れたちょうど真上に時計がある四人席の壁際のソファー席に
座りコーヒーを何故か最初ブラックで
頼むのに後から机脇に置いてある砂糖を
つぎ足す
最初から砂糖を入れたコーヒーも
出来ますと勧めるけれどそのお客様は必ず
最初にブラックコーヒーを頼む
そうして自分で砂糖を入れる。
その数は、必ず四杯
どうやらこのお客様の中で物事を進める
数字と言うのが決まっているらしい
コーヒーが来たら必ずそのお客様は
読書をする。
必ず10ページ読んだら栞を挟み
そしてソーサからコーヒーカップを
持ち上げ揺らしながらコーヒーの香りを
楽しみそれをじっくりと堪能した後
20分掛けて一杯のコーヒーを飲みきり
そうして正午頃 そのお客様は席を立ち
そうして必ず皺の無い新札のお札で会計を
支払うのだ。
そうして穏やかな笑みを浮かべ
店員に朗らかに「ご馳走様」と挨拶をし
紳士然りとした姿勢でまたドアベルを
カランと鳴らし去って行く
そうしてまた今日も午前九時
カランと軽やかに響くベルが鳴り
紳士然りとした風貌で時計の真下の席に着くそのお客様の決まったルーティンがこの
店のいつも通りの始まりなのだ。
10/20/2024, 11:34:27 AM