300字小説
未来視の魔女
「……もしも未来が見れたなら……」
通夜の席で友人の細君が泣き崩れる。一昨日、早起きしたあいつは気まぐれに一本前の電車に乗って出社したらしい。その後、会社の前の横断歩道で突っ込んできた車にはねられ亡くなった。そして……。
『彼が居ない世界に居ても仕方が無い。私は私の世界に帰ります』
葬式が終わり、四十九日法要を終えた後、細君はそう言い残して消えた。
気まぐれに一本早い電車に乗って出社した俺の前をファンタジー映画の女優のような格好をした、いつかの細君が通り過ぎる。
「……あの……」
追い掛ける俺のいた場所に工事現場から鉄筋が落ちる。
『……良かった。あなたは助けられた』
細君が杖を降る。すっとその姿が消えた。
お題「もしも未来が見れるなら」
4/19/2024, 12:24:11 PM