「誕生日おめでとう、楽太」
目の前に差し出されたのは、朗(あきら)の穏やかな笑顔と、きっちりラッピングされた大きな箱。
「へへっ、いつもありがとな。朗」
朗は俺の幼なじみだ。運命の悪戯か、
クラス替えがあってもなぜか毎回一緒になり、
席も近く、いつも隣で過ごしてきた。
朗に促され、緊張しながら箱を開ける。
緩衝材を取り除いた瞬間、
中身を見た俺の時間が止まった。
「……嘘だろ」
それは、数十年前の廃盤になったゲーム機本体の、
新品未開封品だった。
「これ、どうしても手に入らなくて
諦めてたやつ……!」
生産終了後、プレミア価格が跳ね上がり、
今や市場では傷だらけの中古品ですら
滅多にお目にかかれない、まさに幻の逸品だ。
「楽太、ずっと欲しがってただろ?」
「朗、おまえホントに……!最高!心の友よ!」
箱を抱きしめながら感謝を伝えると、朗が喜んでくれてよかったと、満ち足りた表情で微笑んだ。
喜びに打ち震えていると、ふと、ゲーム機の緩衝材の隙間に、小さな四角いものが入っているのを見つけて取り出した。
「DVD?」
タイトルも何もない、真っ白なパッケージ。
もしかして、あの手の動画か?
いやいや、朗がそんなものを贈るわけがない。
「せっかくだから、一緒に見ようよ」
朗がDVDディスクをテレビに入れるので、
仕方なくリビングのソファに並んで座った。
映像が始まった。
最初に映し出されたのは、手を繋ぎながら歩く
父さんと母さんの姿。二人とも若い。
「男の子かな?女の子かな?」なんて
顔を見合せながら嬉しそうに会話している。
それから場面は切り替わり、母さんの大きくなった
お腹に、父さんが優しく話しかけている。
次に映ったのは、助産師さんの腕の中に抱かれて
「おぎゃあ、おぎゃあ」と泣く赤ん坊。
『元気な男の子ですよ』という助産師さんの声に、
疲れきった母さんがホッとした表情を浮かべている。
「これ俺か……?全身真っ赤で猿みてえだな」
俺が笑うと、朗も静かに笑った。
映像は、まるで加速したタイムカプセルのように
流れていく。
幼稚園。スモック姿の俺が体格のでかい悪ガキと
喧嘩している場面。
入学式。制服を着たちびっ子の俺が
門の前で母さんと写真を撮っている。
夏休み。でっかいカブトムシを捕まえて、
仏頂面のじいちゃんに見せて得意げになっている。
中学。クラスの女の子に呼び出され、
告白を受けている場面。
(あの後、すぐに振られてその子は転校したん
だっけか。苦い思い出だ)
高校。授業中に爆睡して先生にどつかれ、
みんなに笑われている場面。
他にも、弁当を猛スピードで平らげる場面、無防備に腹を出して寝ている場面……本当に、ありとあらゆる「俺」が収録されていた。
「どうだった?楽太のこれまでの軌跡」
映像が終わると、
横にいた朗がすかさず声をかけてきた。
「……てかこれいつ撮ったんだよ。盗撮だぞ盗撮!」
「あはは、ごめん。子どもの頃の楽太が、とにかく
可愛くて、どうしても保存しておきたかったんだ。
もちろん、今の楽太もすごく魅力的だけどね」
真剣な、少し熱を帯びた朗のまなざしに、
俺は恥ずかしくなってそっぽを向いた。
「ほんと、おまえってさ……、
昔から俺のこと好きだよな~」
幻のゲームを手に入れてくれたり、
俺の知らぬ間にこんな動画を撮りためてたり。
こんなやつ、他にはいない。
「うん、……ずっとね。これからもよろしく、楽太」
「おうよ」
俺が拳を差し出すと、朗もそれに答え、
コツンと、乾いた音が二人の間に落ちた。
お題「贈り物の中身」
12/3/2025, 8:15:16 AM