ななせ

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貴方と初めて会ったのは、まだ年端もいかない頃でした。その時の貴方は親の後ろに隠れて、こちらを伺っていましたね。本当を言うと、貴方の第一印象は良いものではなかったんです。それどころか、何もしないでモジモジする嫌いなタイプだとさえ思っていました。子供の勘なんて、アテになりませんね。
でも、私が手を差し出した時の安心したような顔が、とても綺麗で。子供に綺麗、なんておかしいかも知れませんけど、あの時の私の感情は、言い表すならやっぱり綺麗が妥当だと思うんです。


貴方は成長する度に美しさを増して、十五歳の頃にはビスクドールと並んでも遜色ないような美少女に育ちました。その頃の私は、貴方の隣りにいるのが辛かった。もともと、私は自分の容姿に自信がなかったので、自分の隣りに絶世の美女が存在する事に耐えられなかったのでしょう。わたしは貴方を避ける事が多かったように思います。
二十歳にもなるともうそんな事は無くなりましたけれど、あの頃に感じた劣等感は一生拭えないものです。



貴方は素晴らしい人ですから、他人の目に付くのは仕様がないんです。貴方はどんどん輝いて煌めいて眩しくなって…大勢の目に触れる事になりました。
本音を言えば、少し寂しかったんです。でも、これで良かったのだとも思います。私だけの神様でいてくれなんて贅沢を言える立場ではありませんし、貴方は矢張り、人に崇められてこそ更に美しさを増す。
ああ、でも、一つだけ願いごとがあるんです。お願いです。
貴方には、ずっと笑っていて欲しいんです。貴方の涙を見るのは辛い。どんな時も、貴方が笑顔でいられる事。私はただ、一心にそれを願っています。
そして、差し出がましいですけれど、どうか、それを見届ける事をお許しください。貴方の隣りに居ることを、許してください。


お題『ずっと隣りで』

3/13/2024, 12:04:09 PM