【⠀No.3 いつまでも捨てられないもの 】
夢のために上京することを決めた田舎娘の私。
窓を開け放って故郷の風を思い切り吸い込むと、
たくさんの思い出がフラッシュバックする。
楽しい思い出、幸せをくれた故郷とも、もうすぐでお別れだと実感して、ちょっぴり寂しくなった。
ふと部屋の隅に目をやると、綺麗に片付いた棚の上に、
四つ葉のクローバー柄の栞があった。
クローバーの四つの葉それぞれに、無邪気で子供っぽい文字でメッセージが刻まれている。
転んで泣いてしまった私を泣き止ませてくれたこの魔法の栞を見て、その持ち主をまた思い出す。
「懐かしいな。」
こんな昔のこと、彼はきっと覚えてない。
小学生になった時に引っ越して連絡が取れなくなってからもずっと、私は忘れられないでいるのに。
「好きだよ。」
本人に届くはずのない想いを口にして、自分で恥ずかしくなって。彼との唯一の思い出であるこの栞を、素早いけど丁寧に、鞄の奥に直しこんだ。
彼に貰ったこの栞も、彼との出会いの地である故郷への愛も、彼自身への一方通行な愛も。
私がいつまでも捨てられないものなんだろうな。
8/17/2024, 12:15:41 PM