ある少女が足元にある紙を拾い、同室に偶然居た男の子に声をかける。彼は何か描きものをしていた。
「ねぇ、この紙切れ何?随分質が良さそうだけど…」
「地図。」
「え?」
「だから、“新しい“地図」
一瞬驚いた顔をした少女はどこか納得した顔をして、新たに浮かんだ疑問を一向にこっちを見る気配の無い男の子に問いかける。
「え?何、あの珍事現象まだ消えてなかったの?」
「うん。」
そっけなく返答する男の子を横目に少女は窓際にある自分の席に移動し、珍事現象について思い出した。といっても、その現象がいつから始まったのか、正確な日時は思い出せない。
ただ、その珍事現象は、少女にとって急だったことで、唐突に終わったことだけが印象に残っている。
珍事の内容は次の通りだ。
「どこからともなく頭上に“新しい“地図が降って来る」それも一枚だけでは無いし、人によって降って来る時間、枚数が異なる。総数はわからないが、テレビに出ていた学者のような人が平均して1000枚だと言っていたような気がする。
他人にはただの白紙に映るが、紙が頭上から降った本人にはそれが「“新しい“地図」だと直感的に分かるし、何が描かれているのかも理解できる。しかし、それを本人が気にいるかどうかは別であるらしかった。
最初の頃、少女は鬱陶しい現象だと思った
降って来る地図は、どれも夢物語の様な、神話の様な何となく理解出来るが理解したとしても、何かできるわけでもない抽象的な内容だったからだ。
しかし、次第に変わっていった。その地図は段々現実味を持っていった。これなら私でも出来るかもしれない、安全で、平凡で、それなりに苦楽がありそうな内容に興味を持って、一様保管する様になった。けど、まだあと一ピース足りない様な物足りなさが降ってきた「“新しい“地図」を見るたびにあった。
ある日、クラスの帰りのホームルームでその現象が全員に発生した時、少女は驚いた。地図を崇拝する子や自分と同じ様にファイルに保管する子、ゴミ箱に捨てる子、何かを書き足そうとしている子など様々で、他の子と見せ合おうとするが上手くいってない様子や地図自体をただの紙として丸めて遊んでる様子も散見されたからだ。今まで他人の「“新しい“地図」の扱い方を見たことが無かった少女にとって新鮮な光景だった。だけど一番印象に残っているのは、さっきの男の子の扱い方だ。その男の子は降ってきた地図を手に取るや否や破り始め、小さく裂いたそれをゴミ箱に入れるではなく、自前のビニール袋に詰めていた。そんな扱い方をするのはクラスでその男の子だけで、破る音が聞こえ始めて、終わるころには彼を凝視するものが増え、騒がしかったクラスがシンと静まり返って居た。
そんな中、
誰かが男の子に「それ持って帰るの?」と聞いて、
「うん。」と男の子が答えていた。
また誰かが「持って帰って何に使うの?」と聞いて、
「燃やす。」と男の子は答えていた。
余りにも平然とした顔で言うものだから少女はその時、咄嗟に「何で?」と男の子に聞いていた。
男の子はまた平然と「ムカつくから」と答えていた。
地図の乱暴な扱い方と現象が起きた途端のムッとした顔から男の子が怒って居るのは伝わっていたが、果たしてこの地図は燃やす程のものなのか?便利やウザいとは思ってもこの現象は怒る程のものだったのか?そんな疑問が湧いたのを覚えている。まぁ、あの時は早く帰りたい気持ちが頭の中を占領していたので不思議な子と思うことにして、終わったが。
少女の珍事現象が終わったのはその少し後だった。
少女はいつもながらに降ってきた「“新しい“地図」を見てた時だ。
いつもの何かが欠けている感覚は抱かず、少女は“納得“の様な感覚得た。それ以降、この現象はパッタリと無くなり、これまで保管していた地図もいつの間にか消え、手元には一枚の地図だけが残った。
その残った地図も今や机にあるファイル棚のどれかに挟んである状態で正確な場所も覚えてない。
少女にとってはもう二、三ヶ月前のような出来事ですっかり忘れていた。
今もまだあの男の子はその現象に見舞われているらしい
今日は早く着きすぎて、友達が来るまで時間がありすぎるので少女は、暇つぶしに男の子に問いかけをし始めた。
「もう燃やさなくていいの?」
男の子はしばらく黙って居たがその意図を思い出したのか
「面倒になったから」
とあの時と同様に淡々と答えた
少女は質問を続ける
「何であんなに地図に怒るの?あれ、どっちかというと便利じゃん」
「便利?あんなの俺の地図じゃない」
「でも、あんただけが見えてるんでしょ?『“新しい“地図』だって思えたんでしょ?」
4/7/2025, 2:51:55 PM