こんな夢を見た。両親が結婚記念日に旅行に行くと言うので、私と弟は快く送り出した。三日間、口うるさい両親がいないことに私たちは浮かれた。二日目の朝に弟が友人の家に遊びに行き、家には私一人だけになった。今のうちにお菓子を食べながら、友人から借りたホラー映画でも見よう。弟は大のホラー嫌いで、音が聞こえてくるだけで「すぐ消して!」と怒鳴り込んでくるのだ。少し神経質だと思う。雰囲気を出すためにカーテンを閉め、部屋を真っ暗にする。台所に行きお菓子のストックを持ってくると、居間のテレビを操作しホラー映画の鑑賞を始めた。ソファに寝そべりながらホラー映画を見、お菓子を食べられるなんて初めてだ。いつもなら母親にだらしないと怒られ、お菓子を取り上げられてしまう。だが、今日は母親も弟もいない。つまり、一人最高というわけだ。映画の中では主人公の周りに異変が起き始めている。
「何見てんの?」
映画に見入っていると、背後から声をかけられ私の心臓は思い切り跳ね上がった。もう、両親が帰ってきたのか。男の声だが、弟でもない。弟ならすぐにリモコンを取り上げ、テレビの電源を切ってしまうからだ。不審者が入ってきたのか。
「あ、お菓子だ。ねえ、それ一つだけでもいいからちょうだい」
振り向けず戦々恐々としていると、彼は私のお菓子に狙いをつけた。大袋のスナック菓子だ。たくさん入っているので、一つくらいは良いだろう。
「良いけど…」
お菓子の袋を持ち上げると、袋の中に手を突っ込んだのか、ガサガサと音を立てた。
「ありがとう、結構しょっぱいねこれ」
お菓子の感想を言い、食べ終えても立ち去る気配はない。まだ何か用があるんだろうか。
「…ふーん、ホラー映画見てるんだ」
次は映画か。
「そう、普段は家族がいると見られないから」
「へえ。別に一緒に見れば良いんじゃない?」
「ホラー映画が嫌いな家族がいるから」
「どうして?」
「怖いから」
「怖いから?ホラー映画はそもそも怖いものだよ」
勝手に入ってきて面倒くさい奴だな。無視して映画に集中し始める。
「ねえ、さっきのしょっぱいのもう一つちょうだい」
無言で袋を持ち上げると、ガサガサと袋を漁る音がした。気に入ったらしい。画面の主人公はガタガタと揺れる押し入れに近づく。
「こういうのって、開けても居ないんだよね」
パリパリとお菓子を食べながら、彼は呟く。何故私は不審者とお菓子を食べながら、映画を見ているんだろうか。取り敢えず、映画を見終わったら通報しよう。主人公が押し入れを勢いよく開けると、何もいない。
「ほら、やっぱり…」
主人公が押し入れを閉めようとした瞬間、青白い顔が画面いっぱいに迫ってきた。
「ひっ」
彼の小さな悲鳴が聞こえた。無視して展開に固唾を呑んでいると、弱々しく彼が話し出した。
「…今のは良くない。あんな大きな効果音と怖い顔出されたら誰だって驚くよ。怖いってそういうのじゃないし、解釈違いっていうか…」
ホラー映画は大体そういうものだろう。そうして彼は何度か悲鳴を上げながら、一本映画を見終わった。
「うん、まあまあかな」
「…まあまあ?」
「そう、普通。やっぱりフィクションだから、そんなに怖くなかったよ。というか、君は何でここに…」
ソファから起き上がり振り向くと、男と目があった。だが胴体はなく、天井の照明に長い首を巻き付けぶら下がっている。顔をテレビに向け私と会話していたらしい。
「面白そうな映画だったから、来ちゃった」
彼はニンマリと笑みを浮かべた。
4/4/2026, 9:45:25 AM