未知亜

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 通された部屋には、いたるところにキャンバスが立てかけられていた。
 桃と青のグラデーションに染まる空。エメラルドに打ち寄せる波しぶき。新緑のいきづく森。溺れそうなほど明るい色ばかり使われた世界に、人物はひとりもない。

「最後に描いてたのはこれ」
 案内してくれた母親に示された絵は、夜の闇に浮かぶコンビニだった。街頭の灯りが暖かく世界を照らし、反射した光がキラキラ飛び交っている構図だ。
「あなただよね?」
 店舗の前に座って肉まんのようなものにかぶりつく高校生は、僕と同じリュックを脇に置いて、隣に立つ君を見上げ笑っているように見えた。
 布のなかの世界が光を浴びて輝く。
 

『君が見た夢』

12/17/2025, 9:46:19 AM