兎春

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「……ごめん、気持ちには答えられないかな」
 申し訳なさそうに困り顔でそう答えた先輩の瞳を、私はじっと見つめていた。
「そう、ですよね。先輩って、色んな人に慕われてるし」
「ごめんね」
 でも、私は知っている。人の良さそうな雰囲気のこの人が、本当はどんな人なのか。
「……先輩、ひとつだけいいですか」
「うん?」
「ひとつだけ、思い出をください」
 私の言葉に先輩の瞳の色が変わる。困り顔に少し影が入って、口元がゆるく持ち上がった。
「……それ、どういう意味になるか分かって言ってる?」
「はい」

 頷いた途端、私の視界は近付いてきた先輩によって塞がれた。

4/3/2023, 10:33:46 AM