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 ピピピ ピピピ
 幸せに寝ていた私を現実世界に引きずり出すべく、アラームが鳴り響く。
 夢の世界にしがみつこうとするも、目覚ましのアラームはずっと鳴り響き、健闘虚しく夢から覚める。
 幸せな時間を邪魔されたたことに怒りを覚えつつ、不快に鳴り響くスマホを取ってアラームを解除する。

 今の時間を見れば朝六時。
 いつもなら仕事に出る時間。
 だが今日は違う。
 今日は有休を取った。
 つまり仕事が無い日である。
 仕事が無い日である(大事な事なので二回言いました)。

 どうやら昨日の私はアラームを解除し忘れたらしい。
 まったく弛んでいるな。
 貴重な休日の朝を何だと思っているのか……
 その貴重な朝を無駄に寝て過ごすのが、私の趣味だ。
 なのに何が嬉しくて、こんな早くに起きなければいけないのか

 というわけで、これから二度寝タイム。
 じゃあ、さっきまで見ていた夢の続きを――


「ちょっと美幸!いつまで寝てんの」
 ドアが勢いよくあけ放たれ、母さんが入ってきた
「あと一時間~」
「いいから起きなさい」
「今日休みだよ。寝かせてよ」

――そんなこと言ってないで、布団から出なさい
 そう言われると思ったのに、返ってきたのはふかーい溜息だった。
「あんたねぇ。今日が何の日か分かってんの?」
 母さんが呆れたような顔で私を見る。
 なんの日かだって?
「昼まで寝ていい日」
 私の答えに母さんが心底呆れたような顔をする。

「今日はあんたの結婚式でしょ」
 母さんの言葉に一瞬戸惑う。
 けっこんしき? 
 どこか聞き覚えのある言葉。
 寝ぼけた頭を少しずつ回転させる

 けっこんしき……
 血痕四季………
 結婚式……
 ……
 …
 ぐう

「こら寝るな」
 いつの間にか側にいた母さんに頭を叩かれる。
「痛いんですけど」
「ならよかったっわ。痛くなるよう叩いたから」
 なんて親だ。

「それで思い出した?」
「思い出しました。今日は私の結婚式です。はい」
「はあ、全く……」
 母さんは何度目か分からないため息をこぼす。

「あんたが寝起きに弱いのは知ってたけど、まさかここまでとは……
 普通、自分の結婚式を忘れる?」
「あはは」
 目を逸らしながら笑う。

「そんなに寝ていたいのなら、結婚式キャンセルの連絡するけど……
 どうする?」
「起きます!」
 私はシュバッと布団から飛び出す。
「待ちなさい」
 身支度をすべく部屋を出ようとした私を、母さんが呼び止める。

「まだ何かあるの?」
 振り返ると、母が真剣な顔でこちらを見ていた。
「幸せになってね」
 予想外の言葉に私は目をぱちくりさせる。
「母さん、それは結婚式の後で言ってね」
「その時、あんた寝てるかもしれないじゃない」
「さすがに寝んわい!」
 ふざける母さんを置いて、洗面所に向かう。

 冷たい水で顔を洗えば、寝ぼけた頭が完全に覚醒する。
 そうだ、今日は私の結婚式。
 寝ている場合じゃなかった。
 急に実感がわいてきて、緊張していることを自覚する。

 鏡を見て、寝癖を軽く直し、リビングへ行く。
 何をするにも腹ごしらえをしてから。
 人生で一番長い一日が始まる。

4/1/2024, 9:34:40 AM