ゆじび

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「名無しの子」


真っ白な世界が広がった。
このままこの場所に閉じ籠っていたら。
どうにか未来が、過去が消えて変わっていかないだろうか。


「おまえさぁ。いい加減にしてよっ」
そういって女がまだ幼い女の子を叩いた。
「そういうとこが嫌いなの。あんたを拾ってやったのはだれ?私でしょ。なんでそんなに生意気なの。
私がいなきゃ死んでたくせにっ」
女の子は考えた。
私のなにが駄目だったの?
「そういうとこ」ってなに?
教えてよ。
「まぁまぁ。落ち着いてよ。このガキ死んじゃうよ。
――っね。いいホテル見つけたんだよね。」
心配してる風の金髪の男がやってきた。
「っ。分かったわ」
瞳に光を写さない少女は少しだけ唇を噛み締めた。

あぁ。あの日この人たちから逃げていれば。
愛してくれると考えなければ。
あのまま死んでいたら。

女の子は深い眠りについた。
実際はわからない。
気絶かもしれないし短い眠りかもしれない。
このまま目が開かなければ。そう考える。


怪物がこの世界に蔓延るようになり、孤児がふえた。
いつどこで現れるのかわからない怪物。
それに何人もの人間が殺された。
親だってそう。
孤児が溢れるこの世界では子供の命は軽い。
まぁ。人によるけど。
きっと愛される養子だっている。
私は違うかっただけ。
名前はない。
つけてくれなかった。
そう。私はペット以下だろう。

あいつらが死んだ。
どうやら女の旦那が殴り込んできたようだ。
浮気。不倫。好きかってやっていた女だったそうだ。
女も金髪の男も殴り殺された。
あぁ。よかった。あいつらが死んで。
あぁ。よかった。私は閉じ込められていて。
あいつらが私の部屋に鍵を閉めていたから。
旦那にばれなかった。

数日後。
お腹がすいた。喉が乾いた。
玄関が開く音がした。
「――――っ」
何人かの男が話す声がする。
ご飯くれたりしないかな。
私は重たい身体を引きずって扉を引っ掻いた。
ガリガリっガリッ
微かな音だった。
だけどその後すぐに扉が開いた。
「御幸さんの娘さん発見しました。」
帽子を被った男の人。
警察だった。
そこで私は知った。
私の名前は「御幸」だと。
したの名前はない。だけど家族の絆を表す名字だけは。
(名前だけは縁起がいいな)
幼いながらそう考えたのを思い出した。


目が覚めると知らない家。
孤児院だと。
海の匂いが鼻をかすめる。
あぁ。知らない町にやってきたんだ。
海の見える町。
知り合いなんてもとからいなかったから離れた悲しみもない。

この頃の私はまだ思っていた。

「愛」とはきっと素晴らしいものだと。


高校生になって高校に入学した。
知らない学校。見慣れない人。
緊張で目の前が真っ暗になった。
「あんたすんごくかわいいなぁ。」
女の子の声がした。
「―っ」
当たり前に知らない女の子。
「あんた名前何て言うん?」
「―御幸。」
御幸は下を向いて言った。
「長い髪。憧れるわぁ」
この頃の御幸の髪の毛は長くいわゆるロングヘアー。
前髪は長く目にかかっている。
「――ありがとう」
満更でもなかった。
はじめていわれた。
かわいいって。
「うちは海って言うんよ。これから友達よろしくね」
「うんっ。」
戸惑いはあったもののはじめての友達に心が踊った。
これが「愛」なのだと。

海との学校生活が始まった。
肩で切り揃えた彼女の髪は彼女の性格にぴったりだった。
いつでもかっこよくて。
でも好きな人には甘えん坊。
だいすきな人だった。

ある日海の席で話していた。
海の見える教室。
そこでいろんなことを海から教えてもらった。
アザレアの花の花言葉。
海の話。
ハナミズキの花言葉。
大好きな先生のはなし。
そして大好きな男の子の話。

海の見える町。
中学校から4つ先の駅から海の方へ歩く。
しばらく歩くとカニと猿の石像がある。
そこを左に行く。
すると不思議なことにだれにも知られていない崖がある。下を見ると海。後ろを振り向くと森。
そこで「流星」とタイムカプセルを埋めた。

その話をするときはいつも幸せそうで。
でもどこか寂しそうだった。



そしてあの日。

海が死んだ。

怪物に殺された。

初めてだった。
この世界で一番醜いのは人間だと思っていた。
でも私の大切を奪ったのは怪物だった。
今思えば私を地獄から救ったのは人間の海だった。

それでも一番醜いのは。
海が怪物に殺されて愛奪還組がきて救われたくせに
「あいつが死んでよかった。」
「俺の変わりになってくれてありがとう。」
「最後に正義ぶるんだぁ。」
なんて言ったあいつらだ。
そして何もできず見ていたこの「私」だ。


ねぇ。海。
私に愛をありがとう。
私はあなたに愛されて幸せだった。
でもね。私にはその愛は重くて眩しすぎたみたい。
背負いきれないの。
海。どうして私を愛したの?
今の私は。
あなたに愛されて苦しい。

ねぇ。海。
貴方にもらった愛は無駄にはしないよ。

でもいつかだれかに愛を受け継いで。
私が軽くなるように。
ごめん。ごめんなさい。海。

海の愛を素直を抱き締められなくてごめん。
私は。正面から貴方の愛を見つめられなかった。

私は。
海と同じようにだれかを救って愛を与えて。

いつか。愛を捨てられるように。

そしていつか。軽くなった胸を張って世界をみてみたい。

それまでどうか許して。

満開のアザレアが泣くように、花弁を散らした。



「私は愛奪還組にいく」

涙をはらんだ目を光示先生が丸くした。
「どうして?御幸さん」
「私は借りを返したいんです」
「何に対しての?」
「――海にもらった暖かい感情への」
「――どうしてもというのなら止めはしないよ。
でも海のことだから心配するだろうね。それでも自分の正義を突き通して生きるというのなら
行ってらっしゃい」

海が恋したのもわかる優しい人だ。
でも私は。

「はい。いってきます。」

海の為に死ねなかったこの先生に暖かい目を向けることはできなかった。

先生の左の薬指に付けられた新品の指輪が目に入る。
あぁ。それは先生。
海に嘘をついていたと言うこと?
彼女はいないっていってたのに。

あの日学校を休んだのは式を挙げていたの?

あぁ。海は。いや私はこの人の幸せを許すことはできるのだろうか。




愛奪還組。

思っていたよりも子供が多かった。

私は17歳。もう戦いにでる。
その愛奪還組のエース。春来がいた。

19歳。お酒をガブガブ飲むが銃の腕前はぴかいち。

私は戦ったことなどない。
でも私には力があった。

死んだ人間が見えるのだ。
そしてその人間の声が聴こえる。
私の声は届かないけど。
文通ならできる。
声が届かないのがやけにリアルで嫌みったらしい。
海が死んでから海を探したけど見つからなかった。
叫んでも届かないから。

その力を使い、死んだ愛奪還組の隊員に格闘技を教わった。
愛奪還組の隊員たちはここでしか愛を知らない。
だから大抵の隊員はここに残っているのだ。

私は毒と格闘技を巧みに使いたくさんの怪物を殺した。人間に形がにている怪物には負ける気がしない。
今なら海を守れたのに。
後悔は募るばかりだ。


私が入隊して半年がたった。

リリーという少女が入隊してきた。

人間離れした美しさを放った少女でどこか警戒している。人間とは馴れ合うつもりがない。というようだ。
どうやら14歳。まだまだ子供だった。
でも隣でリリーの手にそっと触れる男の幽霊がいた。
「頑張れよ」
そうとだけ言って心配そうな目を閉じら去っていった。
それだけで私にとってリリーは信頼できる人間になった。
少し関西弁がでていて懐かしく感じた。
想像とは違い、バズーカを片手に大剣を持ち戦う。
初めて見たときは「えぇ。」と声がでた。

そしてまた半年後の春。
春来先輩が20歳。
私が18歳。
リリーが15歳になった頃。
16歳の男の子。晴流也がやってきた。

晴流也はどうかヤンキーっぽかった。
「晴れちゃん」
と呼ぶと。
「あ?俺は晴流也だ。」
でもどこか悪くなれきれていないところが可愛くて
仕方がなかった。
しばらくすると気があったようでリリーといつも一緒にいた。
羨ましく思いつつ見つめていると春来先輩に頭を小突かれる。小突かれるとはいっても馬鹿力の先輩だ。
すごくいたい。
晴流也は意外と科学で勝負する。
爆弾などの科学現象をおこし短剣でうまく戦う。
さすがっ!とからかうとすごく可愛い反応をする。
頬をかきながら耳を赤く染めるのだ。
可愛い。


でも。海の匂いが鼻を掠める度にあの頃の記憶がよみがえる。
海が笑ったあの声を目を口を動きを香りを。
おかしいものだとは思いつつ。


ねぇ。海。
私は愛すべき人を見つけたよ。
私がこの人たちを愛する姿を見ていてよ。

ごめんね。
海の愛から逃げるために愛を捨てるために愛させて。
そしていつか軽い身体になったら空を飛んで海に
逢わせて。


海の匂いが鼻を掠める。
まだまだ背中が重い。
いつかだれかを愛せたのならこの背中は軽くなるのだろうか。


ずっと抗い続ける。
戦い続ける。

それがだれかを愛すことになるのなら。


「海。いつか会いに行くからね。」

いつしか御幸の大切は「海」だけになっていた。
何を捨てても。自分を失っても。
海に会いに行く。

御幸の友情が執着に変わっていく。

会いに行けるのなら。それでいい。




「私の本当の愛は海だけでいい。」

それが、だれかに嘘をつくことになろうとも。


海風が短くなった御幸の髪を優しく撫でた。




4/29/2026, 11:22:17 AM