墓守

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「やあ、元気かい?」

薄暗い闇の中から、底知れない悪意が顔を出した。
少年にまとわりつく赤黒い泥は彼が先程まで行っていた所業を嫌というほど言い表していた。

「………」

無数の鎖に繋がれている私は彼の言葉には応えない。
答えることが何を意味するのか、きっと私は知っている。

「泉菜ちゃんさあ、なんの為に君を監禁したかちゃんと分かってんの?ボク、めっちゃ疲れたんだけど」

分かっている。だからこそ、私の中には躊躇いがあった。
確かに兄を救うには彼の力を借りるしかない。
しかし、それは彼と同類になってしまうことを意味していることも分かっていた。

目の前の、何人もの人を喰らったこの化け物になることと。

「ボク的にはどっちでもいいんだけどさあ、断ったら君を今ここで食べるだけだし」

彼の生暖かい手が私の顔に触れる。
両手を縛られてる今、彼の手を払い除けることはできない。

まるで人形だ。

「早く決断してね。待つのって好きじゃないんだ」

彼の顔が近づいて、私の唇にそっと触れる。
彼なりの縛りなのだと思う。
私が逃げないようにするための。

「どこにも行けないわ。この鎖じゃ」
「キミの心がボクから離れない保証はないから」

彼は手を離すと、そのまま踵を返した。

私と彼はこの先、どんな末路を迎えるのだろうか。
私は、選択出来るのだろうか。

「いつか、さま……」

兄のことを考える。
兄を救わなければならない。
たとえ、誰の犠牲を払っても。

私にはそれしか道が残されて居ないのだから。
私の価値など、そこにしかないのだから。

『ココロノクサリ』

11/7/2024, 2:01:14 PM