「別れ際に」 #10
僕は自分の余命が僅かだと知った。その後、病院に入院してからどれほどの月日が経ったのだろう。
最後に人が訪ねてきたのはいつだっただろうか。
僕の病室では、もはや僕の心臓の音しか聞こえない。
窓の外にある木を眺める。病室が3階にあるため、外の景色は空と一本の木しかない。
年中そこに佇む木をみていた。あの木に再び葉がつく頃、僕はまだここにいるのだろうか。
「こんにちは。お兄さん」
そんな声が聞こえ、ドアの方に視線を向けるとそこには小学生くらいの男の子がいた。
「……こんにちは。…迷子かな…?」
人と話すのが久しぶりで少し声が震える。
その男の子は僕の質問に答えることはせず
「お兄さん、僕と遊んでくれない?」と言った。
「……いいよ。」
誰かともっと一緒にいたい。そう思った。
それから僕は男の子とたくさん遊んだ。
日が暮れた頃、僕は眠気がきてベッドで目を閉じた。
「お兄さん、今日は楽しかった?」
「…楽しかった…」
「……よかった」
その言葉を聞くと共に、僕の意識はゆっくりと消えていった。
僕の意識が消え、病室が静まりかえった頃
「さようなら、お兄さん」
別れ際に男の子はそう言い、静かに笑った。
そして1人、男の子は窓の外へと飛んで消えていった。
この病室からは鼓動の音も消え、静寂に包まれた。
9/28/2024, 12:55:18 PM