俺は足が速かった。学年の中で誰にも負けないくらいに速かった。
「何でそんなに速く走れるんだよ!」
「ヒビキすごい!」
周りにいるみんなが、口を揃えて俺を褒め称えた。俺はそれが恥ずかしくて「たまたまだよ」とか、「そんなことないよ」と否定してしまう。でも、心の中ではやっぱり嬉しかった。
そんなある日。クラスに転校生が来た。
「神崎俊です。東京から転校してきました。サッカーが大好きです。これからよろしくお願いします」
自己紹介が終わると、クラスのあちこちから小さなざわめきが起こった。
爽やかでクールな印象の彼は、スタイルも良く、まさにイケメン。モデルでもやっているんじゃないかと思うほどだった。
その一週間後の体育で、体育祭のリレー戦の代表者を決める徒競走をすることになった。
この結果で、速い男子四人、女子四人が選ばれる。
男女別で出席番号順に五人ずつタイムを測る。俺の苗字は『川崎』だから、神崎と一緒だった。
前の五人が走り終え、レーンにつく。
「よーい、ドン」
開始の合図と共に駆け出す。
結果は、生まれて初めての惨敗。背中を追いかけたまま、追いつくことができなかった。
教室に戻ると、いつもは周りから聞こえていたみんなの声が、神崎のいる方から聞こえてくる。
俺は悔しくて、悔しくて、放課後になって神崎に言った。
「神崎、来年もまた勝負してくれないか」
「うん、いいよ。楽しみにしてるね」
言いたくはないが、今は勝てない。それでも俺は決意した。
来年は必ず勝ってみせる、と。
お題:遠い足音
10/2/2025, 2:24:24 PM