「暖かいね。」
弟が言う。俺達は顔を合わせ、微笑んだ。
「眠たい。」
勉強のし過ぎで、脳が回らない。少し休憩しよう。いや、勉強しないと。お父さんに怒られちゃうから。
「お兄ちゃん。大丈夫?疲れてない?」
弟が俺の部屋に入ってきた。俺の弟は、世界一優しくて、頭が良くて、運動もできる、自慢の弟だ。
「大丈夫だよ。どうかした?」
俺が笑顔で答えると、弟は天使のような微笑みを見せた。
「お兄ちゃんとゲームしたいなって。」
「いいよ。今日も負けないから。」
弟は今日こそは、と意気込んでいた。俺はこの時間が好きだ。この時間だけは、辛い事を忘れられた。
「お前は本当に出来の悪い子だよ。」
父が呆れたように言う。俺は、弟よりも劣った存在だ。それでも、父の期待に応えたい一心で努力してきた。
「もっと頑張るよ。」
いつも通り、笑顔で返す。父は気味悪そうに俺を見る。それでも、俺は笑顔を絶やさない。
弟が産まれてから、俺の人生は変わった。全てにおいて、弟の才能には勝てなかった。ゲームの時だって、弟は手加減していた。何をしても駄目な俺。昔はこうじゃなかったのにな。弟のせいで、そんな暗い感情が頭から消えない。ならいっそ、弟なんて消してしまいたい。
「お兄ちゃん。お父さんを殺したの?」
俺が頷く。俺は今、俺を否定してきた父を殺した。解放されたはずなのに、心は沈んだまま。
「お兄ちゃんは僕を殺すの?」
「お前が居ると、俺の存在した意味がないんだ。」
俺が答えると、弟は涙を流した。
「それなら良いよ。世界一大好きなお兄ちゃんのためなら、僕死ねるよ?」
俺の中から殺気が消えた。あぁ、俺はなんて事を。世界一愛している弟を殺そうだなんて。
「ごめん。やっぱり無理だ。お前には生きて欲しい。」
罪を償おう。俺は、持っていたナイフで自分の腹を刺した。「お兄ちゃんがそんな事するなら、僕だって。」
弟は、俺からナイフを取り自分の腹を刺した。
「朝日が暖かいね。」
俺達は、手を繋いだ。朝日の温もりを浴びながら俺達は天に昇った。
6/9/2024, 2:36:21 PM