鈴懸ダリア

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狭い屋根裏部屋が、僕の安らげる唯一の居場所だ。
天井の隅には蜘蛛の巣が我が物顔で張っており、床は木くずと埃にまみれ、墓のように暗いのに、熱気と湿気をはらんだ部屋は、とても居心地が良いとは言えない。
猫が入り込む扉のような、小さい窓。そこから一筋の光が差し込み、床を丸く照らす。
この部屋には、照明が備わっていない。それどころか、ろくな家具もない。あるのは、錆びたバケツに割れた木材、ぼろになった灰色の布切れと、干からびたネズミや虫の死体だ。

本当に――僕のような生き物に似合いの場所である。

少し歩くだけで、腐って垂れ下がった皮膚が、べちゃりと音をたてる。なんという醜い音だろう。

ゾンビと人間の間に産まれた僕は、父親であるゾンビの血を濃く受け継いだ。だから僕は、人間の姿をした――しかし全身が腐ってしまっているゾンビの身体を持って生きている。

太陽の光が得意ではないこの身体は、常に暗い場所を好む。明るいうちに外に出ると、尋常ではない疲れを覚えて、酷い時には気絶してしまう。一方、暗い場所に居ると活力が漲ってくるのだ。

「普通の、男の子だったら良かったのにな」

壁に手を当てて、そっと窓際の向こうを見る。

よく整えられた庭で、犬と遊んでいる女の子。
僕の、妹。
ゾンビよりも人間の血を濃く受け継いだ子。
笑顔が可愛らしく、無邪気で、幼くて――僕の苦しみなど決して理解することの出来ない頭を持った、能天気で馬鹿な子。本を読むことも、計算も、絵も、歌も、何もかも僕より不出来な癖に。

両親に愛されている、女の子。

ぐっと下唇を噛み、部屋の隅に座る。

もし、願いが叶うのなら。だれか。
僕を普通の男の子にしてくれないだろうか。

いつも、そう願っている。僕の目の前に素敵な女神が現れて、僕の願いが聞き届けられる――そんなメルヘンを求めている。

そんな日は永遠に来ないことを、知っている。

7/1/2023, 2:22:10 PM