ジュボボボと音を立てながら止まっている蒸気機関車の前で私は師とのお別れの挨拶をしていた。
師の名前は知っているがなんとなく師がしっくりきたのでこう呼んでいた。
私は師からいろんなことを教わった。
師は元士族なので教養があり文武両道の方だった。
今日は私の家庭教師としていた師の最後の日である。
「本当に行ってしまうんですね…」
私は暗い顔をして顔を伏せる。
すると師は少したじろぐようにほおを掻きながら
「そうですね」と返す。
しばし沈黙の時が流れる。
そして私が口を切るように「師よ、さよう…」
さようならそう言おうとすると師は私の口を押さえて
「そのさようならは今生の別にとっておくものですよ。」と冗談のように言った。
そして師は蒸気機関車に乗って故郷である長野へ帰って行った。
師との別れから5年が経ち、あの時は青臭かった私が立派な青年になろうとしている時、一通の手紙が私の元に渡された。
それは師の死を告げるものだった。
すぐに長野へ行き、師のもとへ行くともう火葬した後だった。
師の生前の知人だったらしい人に墓を案内してもらうとそこには真新しい玄武岩のお墓があった。
その時、師が、言っていたことを思い出した。
「私がもし死んだら少し風変わりなお墓を建てようと思うんです。」
「どうしてですか?」と私が聞くと師はイタズラっぽく「だって後世の人たちが私の墓を見て心に残してくれるかもしれないでしょ。」
そう言ったんだ。
なんだか懐かしくなってきて涙が溢れてやまなくなった。
これが今生の別れですよね。師よ。
もうこの世にいない人にそう聞くと私ははっきりとした声で「さようなら」そう言って私は長野を後にした。
お題さようならを言う前に
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8/20/2024, 11:49:14 PM