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学校を出ると急に寒くて
温かいものが恋しくなる
温かいものが恋しくなると
温かいものを届けたかった
氷点下の日をふと思い出す

温かい料理を作ってくれる
あなたのために私だってと
温かいものをあげようとした
もう少しだけ幼かった時の
あの冬の日をふと思い出す

手を伸ばして冷蔵庫を開けて
ドアポケットのミルクを出して
踏み台に乗って台所に立って
マグカップにミルクを注いで
どう温めるかわからなくて
レンジの前で泣きそうになって

見かねたあなたが差し伸べた手を
拒んだ 自分でやるって でも
間違ったボタン押すのが怖くて
使い方だけ教えてもらって

ちょっとでも冷めるのが嫌で
早くあなたに持っていきたくて
はやる気持ちが私を急かして
走る足取りが不意にもつれて
転んで床にミルクぶちまけて
挙句にマグカップまで割って
とうとう私は泣いてしまって
すぐにあなたは私をあやして
後始末までさせてしまって

顔をしかめる様子はなかった
小言のひとつも言わなかった
火傷や怪我をしていないか
とにかく私を心配していた

温かいものをあげようとして
迷惑ばかりをあげたあの日を
寒さ身にしみてふと思い出す
あの夜 私を励まそうと
作ってくれた私の好きな
シチューの味が舌に蘇る

帰ってきてその話をすれば
なんでもなくてよかったと
急いで転んでしまうほどの
気持ちがもう嬉しかったと
あの日を笑ってくれるから
苦い記憶にならなくて済む
悪いんだといけないんだと
かけらも思わせない気遣いに
ほろっとまた出そうになる


あなたに届けたかった
だけど上手くいかなかった
それでもありがとうをくれた
あなたにいつか届きたい

「あなたに届けたい」

1/31/2023, 7:00:31 AM