すず

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ある日の平日。その日も代わり映えのない一日を過ごしていたつもりだった。オレンジ色に彩られた少し窮屈な廊下。窓に目線を向ければ、運動部の迫力ある掛け声が聞こえる。靴箱には少し独特の匂いが漂いつつも、それは何処かノスタルジックを感じさせた。いつも通りの放課後。
そのハズだったのだが......
靴箱を開けた拍子に1枚の白い手紙が中をまう。
無意識的に掴んでしまった手紙に唖然をしつつも、手紙を開いてしまった。
母親が子供を愛おしそうに抱くように、合格した受験生が声を荒らげるように、止めようのない事だった。

その内容はただ一言。
(放課後校舎裏まで来てください)

そこからの行動は早かった。靴を投げ出し、履き心地の悪いままドアを開け、足取りは胸の高鳴りと同じく次第に速まっていく。
校舎裏に到着した時、目に着くのは艶やかなストレートヘアを伸ばした長身の女性であった。はち切れんばかりの胸を携えながらもスラッとした体型は誰もが目を惹かれる。
彼女もこちらを認識したのだろう。その顔は自信満々といった様子で声をかけてきた。
「隙だよ」
甘い声色が脳に届くと同時に瞬時に悟る。
彼女が隠していた腕を見せるとピカりと白金色に輝くそれを振り抜いた。ダガーナイフは無駄のない動きで首筋へと投擲された。
「くっ!」
これが奇襲だという事を!!
「痛いじゃないか」
肉をさく嫌な音と共に周囲に血の匂いが立ちのぼる。
発した言葉は幾分か強気ではあったが、劣勢に立たされている事は誰が見ても明らかだった。
かろうじて掌で防いだナイフを抜き取り相手へ投げつける。俊足のスピード。一般人では到底見切れないそれを彼女は悠々と躱してみせる。
お互いがお互いを睨みつけ合う。
ジリジリと狭まる間合い。
試合開始のゴングは軋むような胸元のボタンがこちら目掛けて弾けた時だった。
「バカな!」
思わず、目が固定されてしまう。
先程まですらその破壊力は計り知れなかった。その肉厚は一気に膨れあがる。
「倍ッだと!?」
驚きが駆け巡り、脳のニューロンが激しく揺れ動く。この映像を記録するためフル回転を超えた。しかしそれが仇となってしまう。
「ふっ間抜けね」
すぐに防御の構えへと移るが手遅れである。彼女の持った天性の才。その一旦を思い知り人生を終える。
「見事!」
綺麗な太刀筋であった。スカートの中からはい出たとは思えないほどの大太刀によって切りつけられた体は綺麗に別れる。
「不死身と言われた男もこの程度か」
血を拭き取り鞘へと収める。
彼女のつぶやく言葉には悲しげな雰囲気が感じられる。
「はぁ...一体何時になったら私の好きにも耐えられる殿方が生まれるのか」
だがしかしそれも一瞬の出来事であった。
パチンと頬を叩くと、切り替えた彼女はまた歩き出す。
自身のスキをも耐える強靭な殿方と出会うために!
さぁ進め、少女よ!
運命の相手とスキ会うその日まで!

~完~

4/5/2025, 3:44:44 PM