Rara

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やりたいこと



死ぬまでにやりたい100のこと、なんていうのをよく聞く。100とまではいかずとも、死ぬまでにやりたいことなんていう話題はよくある。
そんなよくある話題に、毎回ついていけないのが私だった。
やりたいことがないわけじゃないけど、死ぬまでに絶対やりたい!とか、そんなに熱意があるわけじゃない。思えば昔から、結構冷めた気持ちで生きていたと思う。

「うーん、やりたいことが多すぎるなぁ…あと1週間で全部いけるかな?」

そう呟いたのは、一緒にベンチに座っている親友の奈々である。「やりたいことリスト」と睨み合いながら、1週間の計画を練っているようだ。やりたいことが多いのは羨ましいが、大変だなぁとも思う。

「流石に全部は無理じゃないかな…」
「うぅ、やっぱ優先順位考えないとダメかー」
「歩きだから移動時間もかかるし、お店系はもう無理かもしれないし。だいぶ絞られてくるんじゃない」
「できないことが増えちゃったなぁ…残念」
「仕方ないよ、突然だったし…」

そう、こんなことになったのは本当に突然だった。あと1週間で世界が終わると口々に言う政治家たち。科学者たち。証拠の数々。どうせ終わるのならと、仕事を放り出して好き勝手しだす大人たち。高校に行く必要もなくなった私達2人は、奈々のやりたいことを一緒にやっていくことにしたのだ。

「…よし、だいたい計画は立ったかな。だいぶ減っちゃったけど、今できる範囲で楽しもう!えいえいおー!」
「おー」
「まずは憧れてた可愛い服を一緒に着たいな。気になってたお店があるの!」
「買えるの?」
「世界が終わるっていうのにお金取ってもしょうがないでしょ。きっと無料で手に入る」
「そんな雑な…まぁいいか」

ーーー

それからの1週間は本当に楽しかった。
可愛い服を大量に着てファッションショーじみたことをした。ペットショップで動物を逃がして戯れた。止まった電車と線路の上で記念撮影をした。1週間でできるやりたいことは、順調に達成されていった。かつてないワクワクの連続だった。

最後の1日、私達は「高校の屋上で一緒に朝日を見る」というミッションを達成した。本当に今日世界が終わるらしく、空高い場所で小惑星がこちらに向かってきていた。隕石の欠片が流れ星のようで、人生最高の美しい朝日だ。1週間ぶりの故郷はゴミだらけで、なんとも言えない気持ちだった。

「綺麗だね」
「そうだね」
「終わっちゃうのか、全部…」
「…そうだね」

奈々は突然、私の目をしっかり見て言った。

「この1週間、一緒に来てくれてありがとう。本当に楽しかった。私のやりたいことが全部叶った気持ちだよ」
「ううん、私は逆に何もやることがなかったから…こちらこそありがとう」
「…実は、ね。あと1個だけ、やりたいことが残ってるの。聞いてくれる?」
「うん、なに?」

奈々は少し下を向き、それからまた私をしっかり見据えて、言った。

「ずっと前から大好きでした。この一週間でもっともっと大好きになりました。私と付き合ってください!」

「私が1番やりたかったこと…言いたかったことは、これなの。」奈々の不安げな声。

流れ星の欠片が地面に転がり始め、私の心には何かが芽生えた。

「私も、言いたいことができちゃった」

人生初、おそらく人生最後の、死ぬまでにやりたいこと。小惑星が近づき、流れ星が増える。

「私も奈々のこと大好きになっちゃった。付き合ってください」

私達は抱きしめあって笑った。やりたいことが達成されて、最愛の人とも結ばれて、もう思い残すことはない。幸せの絶頂にあった私達2人は、小惑星の岩と炎の中で永遠に結ばれた。

あの屋上も、あの街も、今となっては宇宙の塵である。

6/10/2024, 12:12:53 PM