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▶114.「魔法」
113.「君と見た虹」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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時は現在、イレフスト国にある対フランタ技術局付近の湖にて

水面を走っていくシルバーブロンドは、
もう我々では到底手の届かない距離まで進んでいた。

「なんだあれ…」
「魔法か?」
「馬鹿言え、魔法なんてあるもんか」
「いや、でも…」

隊員たちは、魔法だなんだと騒いでいる。
技術では到達し得ない奇跡や偉業をそのように呼ぶことがあるが、
今はそんな眉唾ものに構っている暇はない。


「隊長、追いますか?」
「ああ、馬の得意なものを連れてこい。少人数で追うぞ」
「私の他に3人知っています。すぐに準備させましょう」


勝負はここからだ。





湖を渡り切ってから後ろを振り返り、追っ手が来ないことを確認してから、
元のとおりに能力制限を掛けた。

制御の難易度が高く、燃費も悪いためだ。


「隠れながら進んでも、いずれ追いつかれるだろうな」

【ふり積もった雪の中、足跡を消すのは困難だ。そして、】制限が掛かる直前まで見えていた湖の向こう側では、隊長を名乗った男が周りの人間に指示を出していた。諦めた人間の行動ではない。

「ドウスル?」
「速度を早めるには動力が足りない」

それに、仮に最も燃費のいい速度を保っても、
かなり長いであろう地下通路を抜けられるか怪しい。

「だからと言って身を隠して動力を補給できたとしても、その頃には施設に入ることは困難になっているだろう」

動力さえあれば。
あの第三隊と名乗る集団の体勢が整う前に地下通路に入れるだろう。

「僕ノヲ使ッテ」
「ナナホシ?」
「今残ッテルノ、全部アゲル」
「だが、私とナナホシでは製作者が違うだろう?動力の互換性はないはずだ」
「ウン、デモ試シテ欲シイ」

ナナホシは虫型のメカだ。
音声は生き物のそれとは全く異なる。表情も私と同じく人間が親しみやすくなるように仕組まれたもののはずだ。
だが時々、こうして意志の強さのようなものを感じさせる。

「分かった。どうしたらいい」

いずれにしろ何かしなければ、そのまま詰むだけだ。

「‪✕‬‪✕‬‪✕‬ノ、動力取リ込ミ機関ヲ見セテ」
「それなら私の眼球だ。詳しく見たいのか?」
「デキル?」
「洗浄しやすいように作られているから大丈夫だ」

取り出された眼球にナナホシは触覚を触れさせて調べている。
「ウン、デキソウ。顔モ調ベサセテ」
「分かった」

ナナホシを乗せていた手をそのまま顔、目の近くまで持っていけば、
極細の触覚が、眼窩内の端子にそっと触れていく。
「試シテミル」
「ああ」

触覚を引っ込めたナナホシは、口器を端子に押し付けた。

「ドウ?」
「問題ないようだ」
「続ケルネ」
「いや、待てナナホシ」
「ドウシタノ?」
「今ナナホシが動力切れを起こしたら私は施設にたどり着けない。継ぎ足しながら行こう」
「ソウダッタ」
「私の腹は、先程の全力疾走による発熱で暖かい。道案内は口頭で構わないから、少しでも補給してくれ」
「ワカッタ」

もぞもぞとナナホシが人形の服の中へ潜り込み、人形は聞こえてくるくぐもった声に従って制限内の速度で走り出した。
湖を渡った時に比べれば雲泥の差だが、疲れを知らぬ人形の体は動力のある限り、いつまでも、どこまでも走り続けられる。


(なぜ、私とナナホシに動力の互換性があるのだ?まるで、魔法のようだ)

いや、魔法などという曖昧なものはない。おそらく私たちには知り得ない理由があるのだろう。そして、それは今の私たちに関係の無い話だ。
人形は思考を振り切り、目的地に向かって走ることに集中した。

2/24/2025, 9:41:39 AM