疎外された男

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星座

縁側で先生と晩酌をしている時でした。ふと空を見ると、一面が美しい星空に染まっていました。そんな私の様子に気がついたのか、先生も上を見上げました。
「今夜は綺麗に見えますね。酒の肴に丁度いい」
夜空を見上げながらそう言う先生の横顔が、月明かりに照らされてまるで彫刻のようだと思いました。私は僅かに残っていた酒を呷り先生に聞きました。
「先生は星が好きなんですか?」
「一般の範疇をでない程度にですよ。こうして時々星を眺めては、嗚呼美しいなと思う程度です」
先生は星から目を離さずそう私に告げました。私はまた酒を飲もうと思い杯をとりましたが、空になったことを忘れていたため多少まごついていると先生が気づきました。
「もうそんなに飲みましたか。まだ飲み足りないでしょう。今追加を持ってこさせますから」
先生が向かいの障子に向かって「おい、鈴」と呼び掛けると先生の奥さんがそれに答え、追加の酒を頼みました。追加の酒が来る間先生は、星座に関する逸話を私に語って聞かせました。星座の話は私の好奇心をつかんで離しませんでしたが、私には永遠に感ぜられました。しばらくすると、奥さんが酒を持ってきてくれ、私はようやく酒にありつけることが出来ました。そんな私を見透かしてなのか、先生
が反抗期の子供を苦笑しながら窘めるように私を見ていました。若干の羞恥を感じましたが今はそれで構わないと思いました。
戻ろうとする奥さんを先生が呼び止め今夜は共にどうかと誘っていました。
「そんな悪いですよ。お二人で飲んでいらっしゃったのに」
先生と奥さんが同時に私を見、私は先生に目を合わせ不快でない意思を伝えました。先生にそれが伝わったのか先生は視線を戻し、今日ぐらいは良いだろうと再び誘っいました。最終的には奥さんが折れ、先生の隣に腰かけました。
「今日は星がよく見えますね」
奥さんが感嘆したように言いました 。先生は満足そうに頷きながら奥さんの横顔を見ていました。先生が奥さんに向ける表情は先程の横顔と同じく穏やかでした。私は、酒をちびちびと飲み進めました。奥さんが視線を戻すと、先生と私を視界にいれながら言いました。
「来年もこうして星を見られると良いですね」
私は頷いたが、先生は違っていたようでした。一瞬考える素振りをしたあと、奥さんを見ながら答えました。
「来年。来年か。つまらない事を言うが、鈴。私は来年もここにいるかな」
何て事ない調子で先生が言うので私はぎょっとしました。しかし、奥さんは違っていて依然として態度を崩さず、むしろ強いように思われましたが、決然としていました。
「嫌ですよ。そんな不気味なこと。来年もこうして一緒に見られるだけで良いのですよ」
奥さんにしては珍しいきっぱりとした態度でした。先生は困ったように「分かった」とだけ答えていました。


『先生と私』

10/6/2024, 5:06:32 AM