ー時間よ止まれー
この世界でたったひとつだけ好きな時間があります。
私はその時間を常に心待ちにしているのです。
寝る前も 朝起きたあとも 常にです。
来る今日こそ 私が待ち続けていた日であり 人生で もう二度来ない日でございます。
私には 愛する人がおりました。
この日は 彼女の 愛した日であるのです。
生前の彼女が 常々楽しみにしていた日なのです。
私にはなぜこの日がそんなにも楽しみなものなのか全くの検討もつきませんでした。
彼女を亡くし 私ひとりになっても それは変わらずなにも分からないのです。
でも この日が来ると
なぜか 彼女がそばにいるような感覚に陥るのです。
だから 私はこの時間が好きでした。
ですが そんな ただの妄想 ただの錯覚では私に空いた空洞も 肌寒い気温も なにも 変わりはしないのです。
ただの まやかしでしかありません。
私はそっと靴を脱ぎ 手紙を置きました。
彼女へ宛てた手紙でございます。
私は きっと 彼女と同じ場所へは行けないでしょう。
それでもあなたを愛している。
という旨の書かれた手紙です。
愛した人のために死ぬなど 人間とは正しく愚かでしょう。
私も同意見でございます。
でも 隣に彼女がいないことを 減りもしないもう1人分の食事も たまに香る線香も 私には もう 耐えられないのです。
あなたが生きていた時間で 世界が止まってくれていたら。
私はこんなことをせずに済んだのでしょうね。
9/20/2023, 9:05:03 AM