ある日
忽然と神様が舞い降りて、こう言った。
「貴方の願いを何でも一つ叶えましょう」
何故?と問えば
「貴方が、選ばれたからです」
と答えが返ってきた。
何に選ばれたかなんて知る由も無いが、とにかくその神様はそれ以上のことは何も言ってくれなく、ただ「
願いを」と繰り返すだけであった。
願いだのと言われても、いきなりは困る。
特に今の生活に困ってはいないし、何か悩み事があるわけでもない。
億万長者になりたいとか、そういう望みもない。
そういった訳で、特に無いので帰って欲しいと神様に伝えれば、渋い顔をされた。
「本当にないのですか?…今の現状から抜け出したいとか、たくさんあるでしょう?」
いえ、1ミリもありません。
「嘘でしょう?貴方、このままでは死にますよ?」
そうなんですか。
まあ、それも運命なのではないのですか?
「…何故そんなに自分のことに無関心なのですか」
なるようになる。それが自分なので。
確かにうちの両親はどちらも浮気やら虐待やら世の常識から外れている事を平気でしますし、たまに命の危機を感じたことはありますが。
「……では、余計に」
でも正直、どうでもいいです。
「……」
学校には気の合う友達もいますし、幸にしていじめも受けてませんから。
それに、両親が自分にしてることを見てると、思うんですよ。
ああ、可哀想だな…と。
ああいう事をしなければ気持ちが収まらない、人間として終わってる人。
「…貴方は」
目の前の神様が顔を歪めてこちらを見ている。
それもそうだろう。恐らく自分は世間一般的にみれば「ズレている」のだから。
ぶっちゃけてしまえば、私は全部…自分の身の保証さえもどうでもいい。
それで何かヘマをして死んでしまってもそん時はそん時である。
考えることすらダルい。
ま、人間十人十色と言うのだから自分の様な奴がいてもいいだろう。
人はいつか死ぬんだからそれがちょっと早くなったって別にいい。
……あー、でも。
この日々は飽きてきたな。いい加減つまらない。
学校行って、授業受けて、家帰る日常よりも、この目の前の神様について行った方が面白そうだ。
死ぬ死なないよりも、断然面白いか面白くないかでしょ。
そう思い、未だ黙ってる神様に私は声をあげた。
それに反応して、神様が返事を返す。
「どうしたのですか?」
ありましたよ、願い事。
「聞かせてください」
貴方の世界に連れてってください。
「…それ、は」
その方が、此処にいるよりもよっぽど楽しそうだ。
不可能ですか?
「不可能では、ありません。ですがその場合、貴方は人間ではなくなるのですよ?」
構いませんよ。
「…過去にも面白半分でそう言ってきた人がいましたが、結局その人は狂い、朽ち果てました」
へえ、そうなんですか。
「人間が神の世界に足を踏み入れると言うことは、それ相応の覚悟が必要なのです。簡単に言うものではありませんよ」
私は別に自分が朽ち果てようがとち狂おうがどうでもいいんで。
今を大切にしてるんです。
「貴方の場合は大切にしていると言うよりも、流れに身を任せているの方が正しいでしょう」
かもしれませんね。
「はぁ、全く…本当に、こちらの世界に来たいのですか?」
はい。後悔はしませんよ。
「…その言葉、これからの長い刻の中で忘れないでくださいね」
ええ、忘れませんとも。
………これが本当の「神隠し」……なんちゃってね。
7/27/2024, 1:01:26 PM